コラム

中国水工環境コラム第75回 干上がる水辺

干上がる水辺

中国水工環境コラム第75回(2026 年6 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 先週初め、NHKの昼のニュース解説ではカスピ海の水位低下をとりあげていました。世界一大きい内陸水域であるカスピ海にも温暖化の影響はおよんでいるのですが、今日注目されている理由は別のところにもあるようです。それは、カスピ海沿岸が世界有数の石油・天然ガスの供給地であることと、カスピ海がヨーロッパとアジアを結ぶ輸送ルートの一部であることに関わっています。

 カスピ海は周りを5つの国、すなわち、東岸から時計回りに、カザフスタン、トルクメニスタン、南のイラン、西岸のアゼルバイジャン、北のロシアがとり囲んでいます。カスピ海沿岸域の石油埋蔵量が一番多いのはカザフスタンです。次がアゼルバイジャンで、同国産の石油が5月中旬に横浜港に届いたそうで、中東に代わる石油調達先として注目されています。また、輸送ルートの点では、東岸のカザフスタンとカスピ海と西岸のアゼルバイジャンを結べば、北のロシアと南のイランを避けることができます。つまり、西側諸国から経済封鎖を受けている両国に妨害されない輸送ルートとして注目されているわけです。

 カスピ海の水位低下が急速に進んでいることは事実です。水位低下が始まったのは1990年代からで、この30年間に2m以上低下しました。その影響は浅い北部において顕著で、危機感を特に強くしているのはカザフスタンです。水位の低下は漁業や水上交通、資源開発などを直撃するからです。漁業といえば、カスピ海はキャビアを産するチョウザメの生育地ですが、それも大きな打撃を受けています。

 カスピ海の水位低下の原因は地球温暖化による水分蒸発量の増加もその一つですが、一番大きいのはロシアから流入するボルガ川の水量が減ったことです。ボルガ川はカスピ海へ流入する水量の81%を担っています。水量の減少は流域で進むダム建設、農地への灌漑、生活用水の過剰な採水などによるものとされています。カスピ海周辺では、現在の水位低下が「アラル海の悲劇」の再来につながるのではないかと危惧されています。

 アラル海はカスピ海の東400kmにあり、アムダリア川とシルダリア川が流入していました。一帯はかつてソビエト連邦に属していて、1940年代以降、綿花栽培が拡大しました。河川水の多くは灌漑と都市域への供給にまわされ、アラル海は1割にまで縮小し、塩分は上昇して漁業が消滅しました。こうして、アラル海は人間の無計画な経済活動が生んだ悲劇の水辺として伝えられることになりました。

 無計画な水利用による水量の減少はかつて黄河においても見られましたが、いくつかの対応が功を奏して窮地は脱していると伝えられています。温暖化が進む現在、十分に練られた計画と節度ある水の利用が世界的に強く求められています。

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