コラム

中国水工環境コラム第74回 石油危機と経済合理性

石油危機と経済合理性

中国水工環境コラム第74回(2026 年5 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 今回の石油危機は、幅33kmばかりのホルムズ海峡がわが国にとっていかに重要な場所であるかを教えてくれました。交通や物流が集中する狭い場所をチョークポイント(choke point、要衝)と呼び、ホルムズ海峡、スエズ運河、パナマ運河などがそれに当たります。日本の原油の93.5%とLNG(液化天然ガス)の6.3%がホルムズ海峡を通ります(日本貿易振興機構)。ここは日本にとってのチョークポイントで、封鎖の影響を一番強く受けるのは日本だと言われてきました。今回、まさにその通りになったわけです。

 日本が最も多くの原油を仕入れるサウジアラビアは、長大なパイプラインを使ってペルシャ湾から紅海沿岸へと輸出港を移して出荷しています。政府は、その一部にアメリカからの輸入と国内備蓄を足すと、当面の需要(約320万バレル/日)は凌げるとしています。加えて、長期的な需要を見越して、カナダや中南米からの輸入を検討しています。アメリカもカナダも南米もこれまでの中東諸国よりはるかに遠いので、輸送費用は増えます。コストパフォーマンス(費用対効果、略してコスパ)は悪くなりますが、そんなことは言っておれない状況だということでしょう。

 その努力も必要でしょうが、長期的には、輸送、交通、発電などの分野で脱化石燃料を進めることはさらに重要です。日本は2050年には化石燃料からのCO2をゼロにすることを国際的に公表していますが、その意気込みは本当でしょうか。

 例えば、発電用のエネルギー構成をみると、2024年は火力69%、再生可能エネルギー23%、原子力9%でした。これが、2030年度の目標(第6次エネルギー基本計画)では、火力41%、再生可能エネ36~38%、原子力20~22%となっています。さらに、2040年度目標(第7次計画)では、再生可能エネ4~5割、火力3~4割(水素・アンモニア燃料を増やす)、原子力約2割(これは維持)です。化石燃料と原子力による発電は既存の設備と技術があり、コスパは高いとされます。しかし、コスパでの判断だけで大丈夫なのでしょうか。

 そこを補う考え方が「経済合理性」です。コスパは短期的で目に見える効果と満足度を基準にしますが、経済合理性は長期的で全体的な視点からの論理性を基準にします。同志社大学の浜矩子氏は、「経済は人間が人間のために行う営みだから、人間のためになり、人間を幸せにするものである。人間を不幸にしたり、危険にさらすことになってはならない」と主張します(イミダス・連載コラム、2015年4月)。化石燃料による温暖化の影響は全球的で、特に経済的弱者に大きな打撃を与えます。コスパは良くとも、経済合理性において劣ります。原子力については事故の被害と廃棄物処理の困難さを重視しなければなりません。両方とも低減していくべきです。

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