コラム

中国水工環境コラム第78回 氷河と洪水

氷河と洪水

中国水工環境コラム第78回(2026 年10月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 ヒマラヤ山系の一部で大規模な洪水が発生したのは8月26日のことでした。報道によると、洪水が発生したのはカトマンズの北方120kmのランタン・リルン峰(7234m)の北側で、ネパールと中国の国境地域でした。ヒマラヤ山系の高山はいずれも厚い氷河をまとい、中国、ネパール、ブータン、インド、パキスタンの国々は氷河が関わる災害を免れるわけにはいきません。

 氷河を長年研究してきた名大雪氷学研究室の研究者達は氷河の危険性を早くから指摘していました。私は耳学問で彼らから多くのことを教わり、氷河は低地に向けてズルズルと流下していることも初めて知りました。流下する氷河はその下の岩盤を削り、岩屑や砂(デブリ)を抱き込んでいきます。そして、温かい場所まで下ると氷は融け、残ったデブリは積み重なって谷間を塞ぐ堤防となります。ここに水が溜まってできた湖は氷河湖と呼ばれます。

 同じ谷筋に複数の氷河湖が築かれる場合もあります。温暖化が進むにつれて標高が高い場所で氷河が融け、デブリの堤防の位置も高くなっていくからです。雪氷学の研究者達は現場観測によって、ネパールとブータンでは氷河湖の数も水量も増えていることを確認しています。中には満水状態のものもあり、堤防の崩壊で大洪水が起こる可能性を指摘してきました。ネパールやインドでは実際に氷河湖の決壊による洪水が起こっており、温暖化にともなう氷河の危険性が認識されてきました。

 今回の大洪水も当初は氷河湖の決壊が原因とみられていました。しかし、その後の調査から標高5200m付近で山腹の氷河と岩盤が一緒に崩壊する「岩氷雪崩」が起こり、雪崩は下流の水や土砂を巻き込んで強大化したものと考えられるようになりました(朝日新聞9/3)。岩氷雪崩は、岩盤と氷河あるいは岩盤どうしを固めていた氷が融け、一体化が緩むことによって起こります。これも氷河湖の決壊と同様に、温暖化がその原因だとされています。

 今回の洪水による被害は、ネパールでは死者約1500人、行方不明者6600人以上、物的損害は26億4000万米ドル以上とされています(Wikipedia 9/14)。ネパールのカナル外相は現地テレビで「ネパールはCO2をほとんど排出しないにもかかわらず、地球規模の危機に対して極めて大きな代償を払っている」と話しています。また、主要排出国の中国、米国、インドは今回のような被害に対して補償する責任があると強調しました(朝日新聞9/3)。

 温暖化の影響はグリーンランドの氷河にもおよんでいて、北大の研究者は最近13年間で厚さ5.4m分の氷が融解したことを明らかにしました(北大プレスリリース 9/1)。グリーンランドの温暖化は世界の海洋の生態系に影響を与える大問題です(環境コラム第5回)。温暖化への対応はCO2排出削減に注力する必要があります。

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