海面上昇と公平・公正
中国水工環境コラム第68回(2025 年11 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
このところ夏の猛暑は常態化しており、海の水温も上昇しています。海水温の上昇は台風の発生と発達に影響を与え、海洋生態系を変化させ、同時に、海面水位を上昇させています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次報告書は、1901-2018年の間に海面は20cm上昇していて、このままだと、2100年には50-100cmもの海面上昇が起こると結論しています.
海面上昇の原因の半分は海水の体積増加にあります。淡水も海水も温度が上がると膨張して体積が増えるので、海では水位が上がります。原因の残り半分は内陸の山脈氷河と南米パタゴニアの氷河の融解、およびグリーンランド氷床と周辺氷河の融解です。南極大陸氷床の融解は、今のところ、あまり進んでいません。海面上昇といってもたかが2、30cmのことじゃないかと、ついつい思ってしまいますが、低地しかない国にとっては大変な脅威です。
たとえば南太平洋の島国、ツバルがそうです。平均海抜1.8mのツバルにとっては、UNEP(国連環境計画)による沿岸埋め立てが大きな頼りでした(経費約26億円)。オーストラリアやニュージーランドに加え、米国も拠出金(約4億円)を出して協力していました。ところが、今年1月に発足したトランプ政権はこの事業から撤退してしまいました。しかも拠出金を返せと言います。結局、その80%を返すことで決着しましたが、一連の経緯は、地球環境問題への対応は「公平・公正」の視点からの議論が必要なことを教えてくれます。
人権問題で「公平・公正」を議論する際に使われる2コマ漫画があります。塀越しに野球を観ているお父さんと子供と幼児の絵で、1コマ目の題は「公平」。3人とも高さ30cmばかりの箱の上に立っています。お父さんは塀の上に上半身を、子供は首から上を出していますが、幼児は塀の上の方にある隙間から覗いています。2コマ目の題は「公正」。大人は箱無しで、子供は箱1個、幼児は箱2個の上に立ち、3人とも首から上を塀の上に出しています。
この漫画を海面上昇に怯える、ツバルのような低海抜国の問題に当てはめるとどうなるでしょうか。島の周囲に高い塀をめぐらすこと、あるいは埋め立てによって海抜を高くすることなどが「公平」や「公正」に当たるのでしょうか。また、箱のお金は誰が負担すべきなのでしょうか。化石燃料を大量に消費し、それによって今日の経済レベルを築いた先進国が、「その負担はイヤだ」とは言えないような気がします。
実は、先ほどの2コマ漫画に、もう1コマ加わった漫画もあります。3コマ目は塀が撤去された絵です。障害物がなくなり、3人とも万歳をしています。題は「環境を変える」。海面上昇でいえば、海水温を1900年のレベルに戻すことでしょうか。ここで温暖化をくい止めることが何よりも大事だと、その漫画は言っています。

