環境コラム

中国水工環境コラム第67回 ミカンからアボカドへ

ミカンからアボカドへ

中国水工環境コラム第67回(2025 年10 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 わが国で栽培されている柑橘類は80種類に上り、ミカンだけでも30種以上あるようです。生産量が一番多いのはウンシュウミカンで、和歌山、静岡、愛媛、熊本、佐賀が主な産地です。いずれも名の通った地域ですが、生産量の推移をみると、1980年代以降は長期にわたって漸減傾向が続き、特にここ数年の落ち込みが目立ちます(農林水産統計、令和7年5月)。

 長期にわたる減少傾向の主な原因は生産農家の高齢化と後継者不足、それに伴う労働力不足と果樹園の放棄で、わが国の農業に共通する問題です。また、最近の急減には高温、干ばつ、大雨などの異常気象が大きく影響しており、果実の日焼け、落果、着色不良や浮き皮(果皮・果肉間の空隙形成)などの品質低下が顕著になっています。さらに、カメムシなどの害虫や病気の増加も品質低下に拍車をかけています。

 労働力不足の方は作業の機械化やAIの導入による効率化で多少緩和できるとしても、異常気象の方は対策が困難です。特にウンシュウミカンは生育適温が狭く(年平均気温15-18℃)、このような果樹にとっては昨今の異常高温は致命的な打撃となっています。そのために、ウンシュウミカンの生産地は徐々に北方もしくは高地に向かって移動していこうとしています。海の魚は水温変化への反応が素早く、最近、北海道でブリが豊漁になったり、津軽海峡のマグロが宗谷岬周辺に移ったりしています。しかし、果樹の生産地は生産者が決めることであり、それには信頼できる指針が必要になります。

 その指針が本年3月に公表された農水省農研機構の研究報告「温州ミカン・アボカド適地移動予測マップ」です。これは温暖化の進み具合を3つのケースに分けて、今世紀半ば(2040-2059年)と今世紀末(2080-2099年)の適地を予測しています。温暖化が中程度のケース(今世紀半ばに平均1.8℃、世紀末に2.9℃の上昇)では、ミカン適地は今世紀半ばに房総半島全域まで北進し、今世紀末には宮城と山形沿岸に達します。一方、東京以西の沿岸域は高温過ぎて不適地になるとしています。

 ウンシュウミカンの後を埋めてくれそうなのが亜熱帯植物のアボカド(生育適温15-30℃)です。アボカドは温暖化が中程度のケースでは今世紀半ばには関東地方の沿岸域まで北進し、今世紀末にはミカンの不適地をカバーすると予測しています。この農研機構の研究報告と符合するように、松山市、静岡県、鹿児島県では自治体がアボカドへの転換を推奨しています。日本での需要が伸びているアボカドは、その9割をメキシコなどからの輸入に頼っています。食料自給の点からも、「ミカンからアボカドへ」は一つの具体策と考えられます。それとは別に、「アボカドの後はバナナかな?」にならぬように、私たちは温暖化抑制策をしっかり進めていきましょう。

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