コラム

中国水工環境コラム第73回 バレルは踊る

バレルは踊る

中国水工環境コラム第73回(2026 年4 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 このところ、バレルという言葉が毎日のように新聞紙上に登場します。石油の量の単位のことで、159ℓに相当します。半端な数字ですが、アメリカで石油の採掘が始まった頃には適当な容器がなかったために鰊用の樽を使ったようで、その容量が42ガロン、リットルに直すと159ℓだったということのようです。2月末に始まったアメリカ・イスラエルによるイラン攻撃のあおりを受けて、今、原油の先物価格(1~3か月先に売買される原油の価格)が不安定になっています。原油の取引量もバレル当たりの価格も上がったり、下がったり。まさに上下に踊っています。

 今回の原油価格の動きは国際的な紛争が引き起したものですが、原油価格は元々不安定な要因を含んでいます。それは原油埋蔵量に極端な地域的偏りがあるからです。資源エネルギー庁の資料によると、世界の原油埋蔵量はサウジアラビア、イラン、イラクなどの中東諸国に48.3%が集中しています。どうしてこのような地域的偏りがあるのでしょうか。その疑問に答えるには原油の起源と大陸移動説の両方から考える必要があります。

 中東の石油ができたのはジュラ紀(2.1-1.4億年前)から白亜紀(1.4-0.6億年前)にかけてです。陸上では恐竜が歩き回り、巨大なソテツ類や針葉樹が繁茂し、広葉樹も現れ始めた時代です。その頃、沿岸海域の水中では、河川が運ぶ栄養塩によって植物プランクトンや動物プランクトンが大増殖していました。そのプランクトン類が石油の元になりました(環境コラム第65回)。赤道近くにあった豊かな沿岸海域はテチス海と呼ばれています。

 テチス海は大陸移動の産物でした。2億年前までの地球には一つの巨大な大陸、パンゲアがありました。やがてパンゲアは分裂し、北のローラシア大陸(後のユーラシア・北米を含む)と南のゴンドワナ大陸(アフリカ・南米・インド・オーストラリア・南極)になりました。二つの大陸の間にできた細長い海、それが豊かなテチス海でした。その後、インドとアフリカ大陸は北に移動してユーラシア大陸に衝突しました。テチス海は潰されて消滅し、中東地域の石油としてその名残を留めました。

 原油の価格高騰について、解説者は「地政学的リスクによるものだ」などとよく説明します。地政学の「地」は地理的要因(多くは資源の地域的偏在)であり、「政」は政治的要因を指します。地理的要因は人間の力ではどうにもならず、人智は分配の仕方に向けられることになります。しかし、政治的要因は人間の力で最小化できます。今回の価格高騰もその原因となった政治的判断を改めてもらわねばなりません。

 困ったことに、原油と同じような様相を呈しているものがもう一つあります。レアアースです。これは特に日本にとって深刻です。人智を尽くしたいものです。

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