コラム

中国水工環境コラム第70回 最後の一片

最後の一片

中国水工環境コラム第70回(2026 年1 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 先月初めの12月3日、東北大学は大学院理学研究科の古川善博准教授らのグループが小惑星Bennu(ベンヌまたはベヌー)の砂から6種類の糖を検出したことを報道発表しました。その詳しいことは同大学のホームページや理学研究科の広報ページに書かれています。6種類の糖の中にはグルコース、ガラクトースやキシロースがありますが、最も注目されたのはリボースでした。どうしてでしょうか。

 ベンヌの砂を採取したのはNASA(米航空宇宙局)の惑星探査機ORISIS-Rex(オリシスレックス)でした。オリシスは2016年に打ち上げられ、2020年にベンヌの試料を採取し、2023年9月24日に試料入りカプセルをユタ州の砂漠に届けました。日本の「はやぶさ2」がリュウグウの試料を地球に届けたのが2020年12月6日ですから、その約3年後ということになります。ベンヌの試料の分析には日本も加わり、東北大学はその分析グループの一員でした。

 リュウグウもベンヌも炭素(有機物成分)の多い小惑星です。リュウグウの試料には水の痕跡が認められ、ベンヌの事前観測でも水の影響が示されていました。水と有機物は地球型生命の誕生の舞台であり、素材です。2022年にはタンパク質の元となる各種のアミノ酸がリュウグウで見つかりました。生物の自己増殖に必要なRNAとDNAを構成する核酸塩基とリン酸もリュウグウで見つかっています。これに糖のリボースが加われば、生命素材の基本的なジグソーパズルは完成するのです。その最後の一片がベンヌで見つかったわけです。

 実は、世界各地に落下した隕石の中には糖があることが知られていました。核酸塩基も、リン酸も、アミノ酸も見つかっていました。隕石の元は小惑星なので、小惑星の成分があってもいいのですが、落下中の高熱による変化や、地上成分の混入がゼロとは言い切れないのが弱点でした。これらの化合物が小惑星で見つかったことは隕石研究者にはこの上ない朗報でした。

 隕石研究者の中には、地球生命は他の惑星の素材でできたとする「地球生命外来説」の支持者もいます。東北大学の報道発表もこの線に沿っています。しかし、考えてみれば、いろいろな惑星で生命の素材が作られたということは、地球上でも作られたということになりませんか?水がある地球で、地球由来の素材から生命が誕生した可能性は低くないような気がします。

 地球素材で地球生命を誕生させるには、素材が互いに結合できる距離に接近する、つまり、密集する機会が必要です。アミノ酸が密集し、結合してタンパク質になる。また、核酸塩基とリボースとリン酸が凝集し、結合してニュクレオチドになる。そんな密集・凝集の場が要ります。それは大小の水溜りや池、あるいは海岸のタイドプールの中かも知れません。今、研究者たちはそんな場所を探しています。

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