コラム

中国水工環境コラム第69回 伐ってよい森、いけない森

伐ってよい森、いけない森

中国水工環境コラム第69回(2025 年12 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 先月、ブラジル・ベレンで開かれたCOP30(第30回気候変動に関する政府間パネル)では、熱帯雨林の保護を目的とした「国際熱帯林保護基金」が設立されました。ブラジルの強い主張と粘り強い外交が高く評価されています。COP30と開催地ベレンについては別の機会に触れたいと思いますが、南米9か国にまたがる広大な熱帯雨林(アマゾン)が急速に減少していることは広く知られているところです。

 広大な熱帯雨林は光合成によって膨大な量の大気CO2を吸収しています。熱帯雨林の減少はその分だけCO2を大気中に残すことになり、温暖化対策上のマイナスとなります。また、一度伐採された熱帯雨林の再生は極めて困難です。熱帯雨林の土壌は表層の落ち葉や有機物に乏しく、肥料も少ないからです。落ち葉も有機物も高温のために分解が速く、分解の際にできる肥料は強い雨で流されることが原因です。加えて、伐採地に差し込む直射日光は土壌中のわずかな有機物を分解してしまいます。熱帯雨林は伐ってはいけないのです。

 わが国にも伐ってはならない森林があります。青森ヒバ、秋田スギ、木曽ヒノキの保護林や、白神山地、屋久島、その他の原生林がその代表です。私は30年ほど前に秋田県能代市の秋田スギ保護林と岐阜県上松町の木曽ヒノキ保養林を見学しました。いずれの森林にも、胸高(人の胸の高さ)直径は1m以上、樹高40mを超え、樹齢200年以上の巨木が林立しています。伐ってはならぬ国の宝だと思いました。

 一方、人の手で育てられ、人の用に供されてきた人工林に対しては、積極的な伐採と植林と30~40年後の再伐採を繰り返すのが上策だと考えられています。森林が大気CO2を活発に吸収してドンドン大きくなるのは樹齢30~40年までで、それを過ぎるとその能力は衰えることがわかってきたからです。わが国の年間降水量と平均気温は樹木の生長に適し、落葉は豊かな土壌有機物と肥料に変化して森林を育てます。さらに、落葉と根は雨水を土壌に浸透させて地下水を涵養する働きもしています。

 人工林は管理次第で環境に大きく貢献しますが、そのためには労働力の確保と樹木の高度な利用技術が不可欠です。幸いなことに、わが国にはその手本となる優れた実践例が各地にあります。大学にもあります。能代市の秋田県立大学付属木材高度加工研究所では、樹木の部位すべてを利用し尽くす技術開発を進めています。柱や板にならない端材、枝や木屑は木質ペレットにしてバイオマス発電に供しています。

 人工林と原生林(もしくはそれに近い森林)との対比を、伊勢神宮所有の常緑樹林と隣の民有林との境界で目にしたことがあります。民有林の常緑樹林は炭焼きのために何度も伐られてきました。木の高さは2倍近く違います。人工林はこれでいいのだと、私には納得できました。

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