環境コラム

中国水工環境コラム第65回 石油は今もできている

石油は今もできている

中国水工環境コラム第65回(2025 年8 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 石油は石炭や天然ガスとともに化石燃料と呼ばれています。はるか昔にできたものだという意味合いがあるからです。私たちが使っている石油の多くも今から1億年以上前の生物からできたものです。地質年代でいうと、白亜紀(0.6-1.4億年前)からジュラ紀(1.4-2.1億年前)にあたります。爬虫類が出現し、それが大型化した恐竜が地上を歩き回っていた時代です。植物も大きなソテツ類や針葉樹が繁茂し、やがて広葉樹も現れました。そんな陸上植物が石油の元になったのでしょうか。いいえ、それは石炭の元になりました。

 石油の元はずっと小さな水中植物で、河口域に繁茂していた植物プランクトンや動物プランクトンです。河口域には陸から流入する河川が植物プランクトンの栄養となる成分やミネラルを運び込んでくれます。そこで、先ず、植物プランクトンが育ち、これを餌とする動物プランクトンが育ち、さらに多くの魚介類が育ちます。河口域は現在でも海産生物の豊かな海域となっています。プランクトンはやがて死んで細菌の分解を受けますが、一部は海底に達し、川が運ぶ粘土や砂に埋められて堆積していきます。

 河口域に堆積したプランクトンの有機物は、次々に積もる堆積物の重さと地熱によって徐々に変化していきます。その過程で「ケロジェン」というタイプの物質ができますが、これに何千万年もの時間がかかります。ケロジェンが熱分解したものが石油で、熱分解の副産物が天然ガスです。河口域での活発な生物活動と堆積は今日も続いていて、地下深部ではケロジェンができ、その熱分解も進んでいます。つまり、石油は今もできているわけです。

 陸でも海でも、生物は呼吸や死後の分解、あるいは燃焼でCO2を発生させます。しかし、そのCO2の全量を現存の光合成植物は吸収することができます。その結果、大気中のCO2濃度は変化しないことになります。そこへ化石燃料由来のCO2が加わると、しかもその量が多いと話は別です。現存の植物量では吸収しきれない分を海が水中に溶かし込んでくれますが、それにも限りがあって、溶け残った分は大気中に残るしかありません。こうして、大気中のCO2濃度は上昇し、気温も上昇します。それが続いているのが今の地球の状態です。

 経産省と環境省のデータでは、化石燃料を燃やして同じ熱量を得るときのCO2発生量は、

石炭:石油:天然ガス=10:7.6:5.5

とされています。CO2発生量を抑える点では、石油より天然ガスの使用がましだと言えますが、大気中のCO2濃度を増やすことには変わりありません。なお残念なことは、石炭を何とかして使おうとする動きが今でもあることです。最近、日本一の石炭輸送船が進水しましたが、これが本当に喜ぶべきことなのかと考えてしまいます。

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