「地球温暖化はフェイクだ」?
中国水工環境コラム第64回(2025 年7 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
去る6月20日のNHKニュースは、環境省が気候変動関連の「フェイク情報」対策として特設サイトを設けたことを伝えていました。環境省のホームページで、「政策」→「政策分野一覧」→「地球環境・国際環境協力」へと進むと、「気候変動の科学的知見」の特設サイトに辿り着きます。そこには、気候変動の科学的根拠となる情報やデータが並んでいます。その多くはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表したもので、これに環境省の取り組み、動画、パンフレット、人工衛星観測データなどが加わっています。
「フェイク情報」には「地球温暖化は起きていない」とか「人間活動によるCO2は関係ない」や「気候科学はサギだ」というのもあります。同様な主張は以前にもあり、科学の装いをこらした地球温暖化否定論も出されていました。その典型が武田邦彦著「日本人はなぜ環境問題にだまされるのか」(2008年、PHP新書)です。著者は芝浦工大、名古屋大学、中部大学の教授経験者でもあり、科学的な論証を期待して私も購読しました。
しかし、内容は期待とは大違いで、IPCCが発表したデータの一部を都合よく解釈し、「温暖化はたいして進んでいない」、「温暖化の主犯はCO2ではない」「地球の公転・自転の変動も影響する」、「森林はCO2を吸収しない」などの考えが次々に出てきます。特に、「温暖化は進めていくべし」は論外です。データの捏造もあって、当時の「フェイク情報」にはそれを借用したものもありました。
現在の「フェイク情報」は世界的に拡散しています。そのため、国連は気候変動の事実と根拠をホームページで公開し、国際機関の対策も進められています。問題は「フェイク情報」が広まった時期で、NHKニュースウェブ(6月14日)によると、インターネット上への投稿が特に増えたのは去年11月頃からだそうです。トランプ政権誕生の動きに呼応しています。トランプ氏は地球温暖化対策の「パリ協定」から離脱し、自国の原油採掘量を増やしながらIPCC批判を続けています。「フェイクだ!」と言いながら。
気象庁は4日前に西日本の梅雨明けを発表しました。6月の梅雨明けは異例の早さで、早速、猛暑日の予想が出されました。近年、夏の最高気温の記録更新が続いていて、豪雨と洪水は世界的に増え、大火も増えています。日本近海の水温はこの10年間に2~3℃上昇し、漁場は北へ移動しています。これでも「地球温暖化はフェイクだ」と言えるのでしょうか?
武田氏が言う地球の公転・自転の変動も地球環境を変えます。しかし、それは何千年か何万年か先の話です。それまで人類が滅亡しないために今為すべきは英知を結集して温暖化を抑制し、核戦争を回避することではないでしょうか。
