ハクモクレン
中国水工環境コラム第61回(2025 年4 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
この時期に民家の庭や公園でたまに見かける白いモクレン、それがハクモクレンです。あちこちにあって、紫色の花が咲くモクレンの仲間です。葉が出てくる前に蕾が大きく成長し、一斉に開花して、数日のうちにみんな散ってしまいます。大きくて真っ白な花。それを背の高い木の枝いっぱいにつけて咲き誇っている様子は実に堂々としたものです。
さて、そのハクモクレンの蕾や花は東西南北のどちらを向いているでしょうか。気象予報士の近藤奈央さんによると、ハクモクレンは北向きに咲くのだそうです。蕾が成長するとき、光を多く受ける南側が先に伸びるためです。その結果、蕾や花が北を指すところからコンパスフラワーとも呼ばれているとか(NHKニュース「おはよう日本」、3月18日)。ハクモクレンと同じ頃に咲くコブシ(モクレン科)も北向きに咲きますが、その理由はやはり強い日差しを南側に受けるためとされています(新潟県立自然博物館「科学館日記」)。
ハクモクレンやコブシが北向きに咲く仕組みは、南からの日差しで南側が先に伸びるようにできていることとして、北向きに咲けば何かいいことがあるのでしょうか。大事な花粉やめしべを春先の紫外線から守るためでしょうか。意思を持たない植物に対して成長の仕方に関する利点や目的を尋ねるのはご法度だと言われますが、結果的に都合のいい成長の仕方を選んでいるのも事実です。
例えば、植物の茎が太陽の方向を向くのは、茎の中の植物ホルモンが光とは反対側に移動して、暗い側の細胞を伸ばすからです。その結果、葉は光を真正面に受けて光合成が活発になると、植物生理学者の田中修さんは説明しています(自著「つぼみたちの生涯」中公新書)。北向きに咲き、かつ葉の出ていないハクモクレンやコブシにはこのような説明は通じません。
また、膨らんだ蕾の開花を促す刺激についてもわかっていません。田中修さんによると、一定の時刻に開花する植物は開花の刺激によって三つに分かれるそうです。先ず、開花直前の気温上昇が刺激になる種類(チューリップ、クロッカスなど)。次が明るさの変化に反応する種類(タンポポ、ムラサキカタバミなど)。三番目は気温や光に無関係の種類(ツキミソウ、ゲッカビジンなど)です。残念ながら、ハクモクレンやコブシについての記述はありません。
こうみてくると、花の咲き方一つについてもいろいろ小難しい理屈があることがわかります。そんなややこしい議論は勝手にやっていたらとばかり、ハクモクレンは早春の光の中で輝いています。その様子は次のように詠われています。
おおらかにここを楽土とする如し 白木蓮の高き人もと ー与謝野晶子
いかがですか、小難しい議論の後のお口直しになりましたか。
