環境コラム

中国水工環境コラム第59回 地下水をつくる

地下水をつくる

中国水工環境コラム第59回(2025 年2 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 日常生活の中で私たちが地下水を意識することはほとんどありません。地下水が地下のどこを、どの深さで流れているかを考える必要がないからです。ところが、有害なフッ素化合物PFASが水道水から検出されたことをきっかけに、地下水のPFAS汚染や安全性がにわかに脚光を浴びるようになりました。もうひとつ注目すべき動きがあります。それが地下水の人工涵養です。

 地球上の水として一番多いのは海水で、97.3%の水が海にあります。次が氷河の2.1%。三番目が地下水で、0.7%です。私たちの身近にあって最もよく利用される湖と川の水は足し合わせても0.01%にすぎません(渡辺征夫ら著「環境科学」実業出版)。湖や川の水も地中から湧き出たものですから、元は地下水ということになります。

 地下水は雨や雪の水が土の空隙を伝って地中深く入ったものです。地下水が最も多く作られる場所、すなわち最大の地下水涵養地は森林域です。森林域には雨が多く、樹木と下草は根の周りに多くの空隙を作るからです。森林の次は水田で、水田の水の一部が地下へ浸透して地下水を作ります。稲作で地下水を涵養し、翌春には麦や菜種などを栽培する二毛作で収入は増やせますが、今日、農業人口は減る一方です。結果的に耕作放棄地が増えています。これに水を張って地下水を涵養しようというのが地下水の人工涵養です。

 地下水の人工涵養は各地で実施されていますが、なかでも目立つのが熊本県です。熊本県では台湾の半導体メーカーTSMCの大規模工場受け入れの準備が進んでいます。その一つが地下水の確保です。半導体製造には大量の水、しかも純度の極めて高い水が必要です。その超純水の製造にはきれいな地下水が向いています。TSMCが熊本県への進出を決めた理由は、熊本平野には大量の地下水があることだと言われています。

 阿蘇カルデラに水源をもつ白川は熊本平野を西向きに流下し、大津町、菊陽町、熊本市を経て有明海に流入します。白川の中流域は広大な水田地帯で、地下水が豊富なことで有名です。その地下水を求めて、すでに医薬品、電子部品、飲料水などの製造企業が集まっています。これら企業と行政は地下水人工涵養の取組みを進めていて、耕作放棄田に水を張る農家に協力金を出しています。農業をしなくてもお金が入る仕組みは、稲作や二毛作を続ける人たちの不評をかっています。

 農水省は、水稲をやめて、野菜や麦、大豆、飼料用米の栽培を始めた農家に転作補助金を払ってきました。報道によると、大津町や菊陽町では稲の代わりに飼料用米を作って転作補助金をもらい、その後に水を張って人工涵養協力金をもらう農家が多いそうです。水稲による主食用米の生産削減は農水省の想定以上の速さで進んでいます。昨年のような米のひっ迫事態があっても、主食用米の生産はこのままでいいのでしょうか。

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