環境コラム

中国水工環境コラム第58回 水中の酸素

水中の酸素

中国水工環境コラム第58回(2025 年1 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 昨年の秋、イワシの大群が下関周辺に押し寄せて養殖中の魚に被害を与えたことがニュースになりました。10 月20 日頃には、川棚漁港内の「生けす」のブリに被害が出ました。11 月21 日には、南風泊(はえどまり)市場に隣接する湾内の「生けす」でトラフグ約7000 匹が死にました。被害額は1500 万円にのぼるそうです。原因は湾内に入ったイワシの大群による酸素欠乏、いわゆる酸欠でした。

 イワシの大群の出現や大量死は、昨年、下関以外でも見られました。3 月には小樽の海岸で大量死がみつかり、4 月から5 月には留萌港に大群が再三現れています。7月14 日のNHK「ダーウィンが来た!」では、伊豆大島の海に現れた数億匹のイワシの大群を報じていました。また、一昨年10 月には天草市の御領漁港で、12 月には函館市の戸井漁港周辺と三重県志摩市の漁港でイワシが大量死していました。

 イワシが群れをつくるのは、敵の攻撃の狙いを分散させたり、群れの水流で泳ぎを楽にしたり、雌雄の密接で交配しやすくなるためです。では、なぜ大群で漁港や湾内のような狭い場所に入り込むのでしょうか。それは、敵(捕食者)に追われた場合や、イワシの適温(10℃前後)とは違う温度の海水が迫った場合の行動だとされています。一昨年10 月の天草市御領漁港や昨年の「ダーウィンが来た!」の伊豆大島では、カツオ、ブリ、マグロなど、イワシの捕食者も多かったので、イワシがこれらに追われたためと思われます。一方、下関の南風泊市場港内や北海道各地のケースでは海水温の影響が指摘されています。

 大群が狭い場所に入れば自分たちの呼吸で酸欠に陥ってしまいますが、赤潮でもない限り、普通の海は酸欠にはなりません。酸素は空中から海水に溶け込むし、水中植物の光合成によっても発生します。空中の酸素も元々は陸上と水中の植物が光合成でつくったものですから、光合成植物は地球上の全酸素の生産者いうことになります。他の生物は、細菌も魚も鳥も獣も人間も、全員、酸素の消費者です。

 その酸素を地球で最初に作ったのは海に棲んでいた光合成生物のシアノバクテリアです。今から25 億年前のことでした。シアノバクテリアの酸素は海を満たし、空中に出て、5 億年前には上空でオゾン層を形成しました。オゾン層が紫外線を遮ったおかげで水中の生物は陸に上がり、陸上生態系をつくりあげました。

 シアノバクテリアは今でも生きていて、植物プランクトンや藻類と共に酸素を作っています。最近の研究では、海の生物がつくる酸素の量は、陸上植物のそれにほぼ匹敵するとされています。シアノバクテリアは1mm にはるかに及ばない、小さな生物です。しかし、酸素生産のパイオニアとして、地球の生物史に決定的な役割を果たしました。小粒ながら偉大ですねえ。

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