環境コラム

中国水工環境コラム第55回 動物で動物を制す

森林は待っている

中国水工環境コラム第 39 回(2023 年 6 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 一月前の9 月3 日、環境省は奄美大島の「マングース撲滅」を宣言しました。マングースはハブと野ネズミ対策のために沖縄と奄美大島に導入されましたが、ハブは夜行性なのに、マングースは昼行性。おまけに、鳥類、爬虫類、哺乳類や果実も食べる雑食性です。そのため、猛毒のハブは減らず、ヤンバルクイナやアマミノクロウサギが激減しました。地元では罠による捕獲を40 年以上続け、奄美大島での撲滅に至りました。奄美大島より広い沖縄では、今なおマングースは生息しています。動物で動物を制するのは簡単ではありません。

 とはいえ、有望なケースもあって、一例がイノシシ対策です。イノシシの田畑荒らしは獣害の約6 割を占める厄介事です。これまでに田畑への電柵設置や捕獲が行われましたが、イノシシは警戒心が強く、土掘り上手で、柵の下に20cm の隙間があれば掘り抜けてしまいます。新たな対策として島根県大田市が試みたのは、耕作放棄地や果樹園に牛を放牧することでした。結果は良好で、牛は草を食べるので草刈りが省け、イノシシの被害も減少しました。望まれるのは、放牧に伴うイノシシの行動変化についての科学的検証です。

 それに応えたのが滋賀県農業技術振興センターの研究でした(同センター研究報告、第47 号、2008)。センターは琵琶湖西岸の山際の耕作放棄地に試験区(2ha)を設け、牛2 頭を放牧し、5年間(2001~05 年)経過を観察しました。その結果、大田市と同様に、試験区や背後の農地へのイノシシ
の侵入は皆無でした。

 肝心のイノシシの行動はテレメトリー法で調査しました。これは、捕獲したイノシシに首輪型発信器を装着して山に放ち、アンテナでその位置を追跡する方法です。滋賀県立大の女子大学院生2 名がそれを指導し、自らアンテナ片手に野山を駆け回りました。併せて、通り道(獣道)の調査やカメラ撮影も行いました。その結果、イノシシは農地に隣接する山の中を行動域としていること、農地近くの獣道を通って農地に侵入すること、新たに出現した牧草地近くでは行動しないこと、獣道も山の奥へ移すことなどがわかりました。

 イノシシは牛を怖がらないので、その行動変化は牛の存在が原因ではなさそうで、イノシシに必須の隠れ場所、つまり草むらが無くなったためとするのが妥当です。本報告には、イノシシは数年後には放牧地に慣れ、獣道を農地近くに移すことも記述されています。さらに、イノシシ対策には放牧地の設置に加えて、田園や隣接森林の環境改変も必要で、休耕田の牧草や小麦・大豆への転作、林間放牧、適度の伐採と下草刈りなどを提案しています。本研究は、農村の過疎化と高齢化に伴う耕作放棄地対策を意識しており、提案は地域おこしの提案となっています。自治体研究機関と大学の関わり方も示唆しています。

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