消滅しない自治体
中国水工環境コラム第 51 回(2023 年 6 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
去る4 月25 日の新聞は「自治体の4 割、消滅の可能性」と題する記事を載せていました。2020~2050 年の30 年間に、わが国の自治体1729 のうち744 が消滅するという将来予測です。山口県は19 市町のうち8つが該当しています。鳥取県も全く同じで、2 県とも消滅可能性の高さは国内19 番目です。中国地方では、山口県より消滅可能性が少し低いのが岡山県で、次いで広島県です。島根県の可能性は大変低く、可能性ゼロの沖縄県から数えて7 番目です。
これらの内容は民間の人口戦略会議が前日に公表したものです。同会議は国立社会保障・人口問題研究所の資料を基に2020~2050 年の若年(20~39 歳)の女性人口の増減を推計し、30 年間に減少率が50%を超える自治体を消滅可能性自治体としています。同様な将来予測は2014 年にも行われ、2010~2040 年の30 年間の消滅可能性自治体が公表されました。そこには本県の市町が含まれていましたが、今回は田布施町が加わって8 つになりました。
2014 年と2024 年の発表内容を比較すると、全国的には消滅可能性自治体の数が増えてきています。ところが、中国地方は例外で、山口県以外の4 県ではその数が減っています。特に島根県では2014 年の16 自治体が4 に激減し、鳥取県も13 を8 と大幅に減らしています。一般に、地域人口の増加には企業誘致やリゾート化などが有効だと言われてきましたが、これらの県にはそのような形跡は見当たりません。外部の力やお金に頼らない、自力での地域おこしが功を奏したと思われます。
島根県では各自治体が地域総がかりの地域おこしに取り組んでいます。そのやり方は地域の資源や特徴に応じて多様で、他地域との交流も活発です。例えば、隠岐の海士町では岩ガキと隠岐牛のブランド化、特殊冷凍技術の導入と水産業の六次産業化、販路の拡張などを進めています。ユニークなのは同町の高校への他府県生徒の受け入れです。この取り組みは島根県の他の自治体へも広がり、他府県からの「高校留学生」が全県的に増えています。
私は大学在職中に海士町の町長をしておられた山内道雄さん(故人)にお会いし、地域おこしの学内講演を聴くことができました。山内さんは「2004 年の全国的な地方財政の困窮時に、町長と職員の給与をカットしたのは町の経営者として失格だった」と話しておられました。それへの反省があって、町民総参加の地域おこしへ舵を切られたのだと推察できました。
自治体の将来は若年女性の人口のみで議論できるものではありません。人口増は地域の豊かさや懐の深さの結果であり、大前提は地域おこしです。それは安易な補助導入では不可能なことを鹿児島の“やね
だん”の豊重さんも指摘しています(本コラム第44 回)。中国地方には学ぶべき地域
おこしの好例がたくさんあるのです。