森林は待っている
中国水工環境コラム第 39 回(2023 年 6 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
日本に来た留学生に日本の印象を尋ねると、「山の緑がきれい、水がきれい、街がきれい」を迷わず挙げます。「山の緑がきれい」は、私もアジア諸国から帰る飛行機で実感していました。飛行機が九州や中国地方の上空に差し掛かると、前日までの景色とはガラリと違った、目の覚めるような緑の輝きが眼下に広がります。その美しさに心から感動したものでした。
それもそのはず、わが国は68.4%が森林に覆われています。OECD 加盟国のなかでは、フィンランド(73.7%)、スウエーデン(68.7)に次ぐ森林率です(世界森林資源調査2020)。わが国の森林は山地表面の浸食防止、水質浄化、水の貯留と洪水防止などの大切な働きをしています。さらに現在では、重要なCO2 吸収源としても注目されています。グリーンカーボン化の働きです。
わが国の森林の内訳は、天然林54%、人工林41%、無立木地と竹林が残りの5%です。天然林の樹種は温暖地ではクスノキやカシ類などの常緑広葉樹であり、寒冷地ではブナなどの落葉広葉樹が主です。人工林ではその7割をスギとヒノキが占めています。スギとヒノキは戦後の木材不足への対策として植えられたもので、1950 年策定の「造林臨時措置法」が後押ししました。
ところで、CO2 吸収源として大事なのはどんな森林なのでしょうか。それについては、先進国がCO2 などの温室効果ガスの削減目標を決めた1997 年の「京都議定書」に、次のように書かれています。「CO2 を吸収するのは、人の手が加わっていない天然林ではなく、人の手で育てられている人工林。つまり森林整備がなされている森林です。」うっそうと茂った天然林が多くのCO2 を吸収しそうですが、実はそうではなさそうです。
植物は昼間には光合成を行い、CO2 を吸収して有機物に変え、体内に蓄積します。一方、一日中続く呼吸では有機物をCO2 に変えて排出します。植物の成長期にはCO2 吸収量が排出量を大幅に上回り、植物は余った有機物で大きく成長します。吸収量と排出量の差は樹齢とともに縮まり、やがて同レベルに落ち着きます。スギやヒノキの盛んな成長期は植林後およそ40 年間とされています。それ以後はCO2 吸収源としての働きは弱くなります。
戦後いっせいに植林されたスギやヒノキはすでに樹齢60 年を超しています。早く収穫して、若い苗木に代え、森林を更新する必要があります。京都議定書に言う「CO2 を吸収する人工林」への再生が必要です。収穫した樹木の活用も大事で、バイオマス発電に供して地域の活性化に役立てている自治体もあります。膨大なバイオマス資源が今は眠っています。わが国の緑麗しい森林は一日も早く人の手が入ることを待っているのです。