環境コラム

中国水工環境コラム第31回 食べ物のうま味

食べ物のうま味

中国水工環境コラム第 31 回(2022 年 10 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 台風14 号が通過したのは先月の19 日でしたが、それを境に朝夕の気温はグンと下がりました。秋の到来です。

さつまいもホクホクあまい いいかおり
やって来ました だいすきなあき

堺市立大泉小学校2 年大寶優香

 これは「東洋大学現代学生百人一首」(2021 年版)の小学生の部に入選した短歌です。サツマイモに限らず、秋にはたくさんのおいしい食べ物がやって来ます。

 食べ物の味の基本は、世界的には、甘味、塩味、酸味、苦味の4 つだとされてきました。これに「うま味」が加わったのは最近のことで、専ら日本人の功績だと言えます。うま味の成分として最初に登場したのはグルタミン酸ナトリウムで、1908 年、池田菊苗によって昆布のうま味物質として発見されました。その後、1913 年の小玉新太郎による鰹節のうま味のイノシン酸、さらには1957 年の田中明によるシイタケのグアニル酸の発見と続きました。

 昆布も鰹節もシイタケも私たちにはおなじみのもので、これらの出汁(だし)をとることは古くから行われてきました。しかし、欧米人にはうま味の存在はなかなか理解してもらえず、彼らは甘・塩・酸・苦味の組み合わせだと考えていました。うま味が認知されたのは、カリフォルニア大学サンディ
エゴ校のネルソン(G. Nelson)らが、“アミノ酸の味レセプター”と題する論文を発表した2002 年以後のことです。この論文に“umami”の単語があったことで、うま味は世界の共通語になりました。

 うま味が欧米で認知されなかった理由の一つは、料理に使う水が硬水だからだと言われています。わが国で使われているのは軟水です。硬水・軟水については、本コラム第8 回(2020 年11 月)でも書いていますが、硬水にはカルシウムやマグネシウムが多く含まれていて、出汁材料のうま味が引き出せません。出汁や赤ちゃんのミルクつくりは軟水に限ることは、日本の主婦はよく知っています。

 食べ物の味の感知は、舌の味蕾にある味細胞の仕事です。以前は、甘味の味細胞は舌の前方、苦味の味細胞は舌の奥、のような分布が信じられていました。しかし、味覚の研究が進み、どの場所の味蕾にも5 つの味に対応する味細胞が存在することがわかってきました。現在では、舌のどの場所でも5 つの味は感知できるとされています。

 味物質の研究分野では、1961 年、グルタミン酸ナトリウムの10 倍も強いうま味のある化合物が、竹本常松らによって発見されました。ベニテングタケのイボテン酸です。ベニテングタケは毒キノコで、イボテン酸は毒成分そのものです。

 赤いバラにはトゲがある。うまいイボテン酸にはドクがある。どうぞご用心を。

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