環境コラム

中国水工環境コラム第30回 雷の正体

雷の正体

中国水工環境コラム第 30 回(2022 年 9 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 この夏は雷がやや多かったような気がしています。ザーッとくる夕立はほとんどが雷をともなっていました。あの雷の正体は、落語ではタツ(辰あるいは龍)となっていて、時に地上に落っこちたりします。古今亭志ん生の噺のマクラでは、落っこちたタツを近所の人たちが手厚く介抱してやります。やがて元気になり、いよいよ空へ帰るときがやってきました。別れ際に、「また、こっちに来なよ」との声に、「はい、冬にはコタツをつれて参ります」でサゲます。

 学校では、雷の正体は雲の中に溜まった静電気だと教わります。強い陽に照らされた地面から強い上昇気流が発生し、高さ7kmを超える巨大な入道雲(積乱雲)が立つ場合があります。上空まで一気に持ち上げられた水蒸気は雲の中で氷の粒や霰(あられ)となり、これらが互いにこすれあって静電気が生じます。雲の中で過剰に溜まった静電気が他の雲や地上に対して放電する際に、あの雷鳴・雷光が発生します。

 気象庁のデータから雷の月別発生数を見ると、ほとんどの県で8 月が最多となっています。雷が多い県は、1 位が石川県で2 位が福井県、以下、新潟県、富山県と、日本海側の県が続きます。日本海側では、冬に大陸から吹き出す寒気が日本海で温められて積乱雲が立ち、雷が発生します。冬の雷が通年の雷数を増やしているそうです。律儀なタツがコタツをつれて冬にやって来た、とするほうが面白いのではありますが。

 雷が落ちると、停電や火事・山火事などが発生して大きな災害となる場合があります。一方で、雷の放電エネルギーが空中の窒素と酸素を窒素肥料の硝酸イオンなどに変えるので、その年は豊作になると言われています。雷による窒素肥料の量は、マメ科植物の根の根粒菌による窒素肥料(1.8 億トン)の22%にあたるそうです。雷は疫病神であり、福の神でもあるというわけです。

 また、「雷の放電が40 数億年前の原始地球で、生命の元のアミノ酸をつくった」と考えたのは、シカゴ大学のミラー(S.T.Miller)とユーリー(H. Yrey)でした。1953 年、ミラーは放電用の電極の付いたガラス容器に水と、原始大気の主成分とされたメタン、アンモニア、水素を詰めて放電実験をしました。実験は大成功で、多くのアミノ酸ができました。雷は生命の産みの親かと思われましたが、そうはなりませんでした。

 後になって、原始大気の成分はミラー・ユーリーの時代とは異なり、90%以上が水蒸気と二酸化炭素で、それに少量の一酸化炭素と窒素を含むと考えられるようになりました。また、これらの成分を使った放電実験ではアミノ酸はできませんでした。今日、地球のアミノ酸は他の惑星から運ばれたとする説があります。もしそうだとしても、その惑星でアミノ酸がどうしてできたかを説明する必要があります。ミラーのような確かな実験がやはり必要だと思われます。

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