春の芽は赤くて渋い
中国水工環境コラム第 26 回(2022 年 5 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
周防灘を望むこの地方は広葉樹が多く、今、山々は美しい春の色に染まっています。その色合いは樹種の豊富さを反映して実に多様であり、山全体として明るく、大変な賑いを見せています。まさに「山笑う」の季節となっています。
これらの木々の葉は二か月ばかり前には赤味を帯びていました。公園の桜の幼葉も赤い色をしており、庭のモクセイもナンテンも赤い葉を付けていました。木に限らず、草花の若い葉と茎も赤い色をしていました。春の紅葉です。それがやがて黄緑色になり、日を追って緑色が濃くなってきています。このような色の変化は植物の中にある色素の違いによってもたらされます。
赤い色素はアントシアンです。花の色として知られています。黄色はカロチノイドで、緑色はクロロフィルです。クロロフィルは複雑な分子で、多くの反応を重ねて生産されます。それは細胞の働きが活発になってできることなので、緑色の発現は遅くなります。一方、アントシアンは最も早い時期に生産され、カロチノイドがそれに続きます。このような色素の生産順に従って葉の色は変化していきます。
秋の紅葉は春の紅葉の逆の順に進みます。気温が下がって細胞の働きが低下してくると、先ず、クロロフィルの生産が止まり、葉の中のクロロフィルは分解します。次に、カロチノイドの生産停止・分解が来て、アントシアンが残ります。やがて、アントシアンの生産停止・分解が始まり、晩秋には褐色の色素が現れてきます。
春の植物の特徴はその味にもあって、多くの若芽は渋味や苦味を呈します。「アクがある」などと言いますが、ワラビやフキ、ウドなど山菜の多くはアク抜きが必要です。アクの主体はタンニンで、これはポリフェノール類の一種です。赤い色素のアントシアンもポリフェノール類の一種です。
ポリフェノール類はベンゼン環(正六角形の亀の甲)にいくつかの水酸基(OH グループ)が結合した構造を分子の中に持っています。この構造によって紫外線を吸収し、活性酸素を取り除くことができます。これらの特性を発揮して、若い草木の芽を春の紫外線と活性酸素から守ってくれます。一連のポリフェノール類は生産しやすいために、春の早い時期に出現できます。これが大きな幸いとなっています。
色素とは別に、植物は抗菌性物質も生産できます。また、抗菌性物質は花の蕾、幼葉、若い枝に多く存在していることも知られています。私もそれを実験で確かめたことがあります。静岡大学にいたときのことです。学生たちと一緒の実験でしたが、学生たちは大変面白がり、「若い植物は病原菌からも守られているのだ!」と感心しきりでした。人間もしかりで、幼き者はしっかり守られるべきです。戦争や圧政の犠牲にしてはならないと思います。
