大渇水で始まった水草大繁茂
中国水工環境コラム第 23 回(2022 年 2 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
今、山口県は寒い冬の中にありますが、去年の夏は例年にない厳しい暑さでした。北海道では厳しい暑さに少雨が加わって異常な渇水(干ばつ、長期的水不足)になりました。2021 年8 月10 日の農業新聞は「渇く北海道災害級干ばつ深刻な農作物被害」と題して、「百年に一度」の渇水で農作物に大きな被害が出たことを報じました。
渇水は農作物へ深刻な被害をもたらしますが、湖の環境に対しても大きな影響を与える場合があります。その例が1994 年の「琵琶湖大渇水」です。この年の滋賀県は雨が少なく、夏(6~8 月)の降水量は例年の3 分の1 以下の200mm 程度しかありませんでした。流入水が減った琵琶湖では水位が6 月から下がり始め、9 月15 日には平年の水位より123cm も低くなってしまいました。それだけ湖が浅くなったわけです。
琵琶湖は大きな北湖と小さい南湖がつながっていますが、渇水の影響は小さい南湖に顕著に現れました。南湖はもともと浅くて最深部でも10m しかありません。そこの水位が大幅に下がったことにより浅瀬の水草は地表に出て腐敗しました。水に残った水草も背の高いものは折れて千切れ、水面に漂いました。そのため南湖の周辺には悪臭が漂い、船はスクリューに絡む水草で運行できなくなりました。琵琶湖の管理にあたっている滋賀県は事態を放置できず、船と人手をたのんで水草とりをせざるを得ませんでした。
1994 年の大渇水の影響はその後も尾を引きました。水位の低下により光が深くまで入った南湖では、湖底でも光合成が可能になって水草が育ちました。水草は水中の濁りを除いて水を澄ますので、水位が元に戻っても光は十分に入り、水草は南湖全体で増えていきました。一方、棲み処の砂地を水草に奪われた南湖名物の「瀬田シジミ」は一気に減少していきました。
南湖で増えた水草に加えて琵琶湖全域の浅瀬に侵入した外来性水生植物の繁茂もあって、現在、琵琶湖水域の水草の全量は約1 万t と見積もられています。大量の水草はシジミなどの魚介類の生育、船や漁具の運用、在来生物の生存に対して深刻な影響をおよぼしてきました。滋賀県は毎年3 億円もの経費をかけて水草の半分を除去しています。その水草の活用法はいくつか試行されていますが、除去経費に見合うだけのものはないようです。
「琵琶湖大渇水」で見るように、湖への渇水の影響は長引くことがあります。それに比べると、農業への影響は必要な降水量がある地域では早期に解消します。北海道の年間降水量は最少地域(北見)でも700mm、道平均では1100mm ありますので渇水の影響は長引きません。ところが、もっと降水量の少ないところでの渇水は悲惨で、その影響は永く続くことになります。次回はその例を紹介しましょう。