デントウを懐かしむ島
中国水工環境コラム第 21 回(2021 年 12 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
昨今のガソリンの値上がりは急激で、昨年10 月の134 円/ℓ(全国平均)が今年11月には165 円。一年で31 円、23%の値上がりです。理由は世界的な需要増と、産油国の生産量固定、それに円安です。これに紛争か輸送トラブルが加われば、私達の日常生活に支障をきたすことは必至です。すべて国外事情によってです。私はそれに似た状況をかつて海外で見たことがあります。
1992 年の正月明け、名古屋大学にいた私は同僚の先生と大学院生の三人で、熱帯はポンペイ島(北緯6.9 度)の夜のレストランにいました。名古屋を朝早く発ってこの島に夕方着き、港に停泊中の海洋調査船「なつしま」に乗船しました。乗船目的は海水中の溶存気体の観測で、ポンペイ島から神戸港までの3 週間の航海です。
さて、その「なつしま」は近くの台風の影響で48 時間の出航延期となりました。「ならば、名物のマングローブガニでも」ということでここに来たのでした。やがてカニが現れ、ビールも来て、「さあ、では」という段でいきなりプツン。停電です。卓上にはローソクが灯されましたが、これが暗くて、カニの色も脚の肉もよく見えません。台無しです。しかし、店内は落ち着いたもので、聞けば、台風でタンカーが来ないのを見越した計画停電だと言います。
それを聞いて、この島の電気は火力発電で、石油はアメリカから運ばれることを思い出しました。10 年前の研究航海の途中、ここに寄港した際に知ったことでした。当時はアメリカ統治からの独立(1986 年)の前で、ポナペと呼ばれていました。
ポナペは1886 年から、スペイン、ドイツ、日本(1914-1945 年)、アメリカによって統治されてきました。ドイツは、軍によるパーム油の収奪、強制労働、弾圧などの苛政を敷き、反乱も起こりました。一方、日本は学校や病院の建設、水道敷設、農業・漁業の振興と水力発電所の建設を進めました。発
電は豊富な降水(9,000mm/年)のために安定していて、デントウ(電灯)は島の夜を明るくし、生活を一変させました。
次のアメリカは、電気を火力発電に変え、水力発電所をすべて破壊しました。その跡を現地で見ましたが、徹底した破壊ぶりでした。ライトはデントウよりも夜を明るくし、クーラーも普及しました。しかし、問題は停電です。熱帯海域で多発する台風の度に、石油の遅延を見込んだ計画停電をせざるを得ません。ポナペからポンペイとなった今日でも、石油の価格も、供給量も、供給期日もアメリカの事情で決まります。
今回は、世界が目指すCO2 ゼロエミッションに向けて、基本となるエネルギー源選択のヒントとなる話しを紹介しました。南の島には、安定した明かりを灯したデントウを懐かしみつつ、自分の手中にないエネルギー源で生活している人々がいることも忘れてはならないと思います。
![](https://chu-sui.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/image-18.png)