タケノコは伸びる
中国水工環境コラム第 15 回(2021 年 6 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
気象庁の発表では、山口県の今年の梅雨入りは5 月15 日頃だったようです。平年値(過去30 年間の平均)が6 月5 日ですから、今年はこれより3週間も早かったことになります。しかも梅雨の期間は長そうですから、私たちにとってはウンザリです。
一方、植物にとっては今が絶好の伸び時で、稲も野菜も雑草も驚くほどの速さで伸びていきます。速く伸びることで知られるヒマワリ、麻、皇帝ダリア、ヨシなどは、一日で数cm 伸びます。しかし、タケノコには到底かないません。タケノコは一日で120cm も伸びるのですから。
タケノコの驚異的な伸びにはいくつかの仕掛けがあります。一つはホルモンの働きです。動物には動物の、植物には植物のホルモンがあって、体の働きを調節しています。タケノコの伸長にはオーキシンとジベレリンと呼ばれる植物ホルモンが関わっています。ジベレリンについては、種無しブドウを作る薬剤として知られていますが、タケノコに含まれるのはこれとは少し違っています。日本の研究者によって詳しく研究されたホルモンです。
仕掛けの二つ目は、節が伸びることです。ほとんどの植物は茎や葉の先が伸びていきます。生長点が植物体の先端にあるからです。一方、タケノコには成長点が先端のほかに、節の一つひとつにも備わっています。竹の節の数はタケノコのうちから決まっていて、約60 とされています。その中でも活発な30 節が一日に3cm 伸びれば、それだけで90cm になります。他の節も手伝って、一日120cm の伸びが実現できるのです。
仕掛けの三つめは、タケノコが親竹の根から出ていることです。ほとんどの植物は種子の栄養を使って芽を出し、あとは自力で光合成をして成長していきます。ところが、タケノコは光合成が活発になるまでの栄養を、根を通して、親からそっくりもらうことができます。私たちは、そのもらい物の一つを目にしています。それはタケノコ缶詰などに見られる白い粉で、チロシンと呼ばれるアミノ酸の一種です。
樹木も竹も自分の体を支える丈夫な幹を必要とします。そのために細胞どうしを強力に接着してくれるリグニンという成分を大量に生産します。リグニンの材料はある種のアミノ酸で、植物は自らの光合成によってこのアミノ酸を作り出します。竹のリグニンの主な材料はチロシンです。これを親竹からたくさんもらっているのです。ありがたいことです。
ところで、タケノコや竹については多くのことわざがあります。「雨後のタケノコ」「破竹の勢い」「木もと竹うら」などがそうです。ナゾナゾもあります。「タケノコを掘りに行って、帽子を忘れた人が三日後に探しに行きました。でも見つかりません。帽子はどこへいったのでしょう?」というものです。さあ、どこなのでしょう。