軟水と硬水
中国水工環境コラム第 8 回(2020 年 11 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
水の豊かなわが国では天然水や水道水に関する知識が広く共有され、水中の大腸菌や重金属の濃度、pH の値、味や臭いなどの水質についての理解も進んでいます。「日本の水は軟水だからネ、ダシをとるのにいいのよ。和食に硬水はダメ。赤ちゃんのミルクには禁物ヨ。」などとおっしゃる造詣の深い主婦もたくさんおいでです。この軟水と硬水が今回のコラムのテーマです。
さて、軟水と硬水は「硬度」によって区別されます。硬度は水1ℓ中のカルシウム(Ca)イオンとマグネシウム(Mg)イオンの濃度に相当する炭酸カルシウムの量として表示されます。単位はmg/ℓです。世界保健機関(WHO)は、硬度120 mg/ℓ以下を軟水、それ以上を硬水としています。これにしたがうと、わが国では河川水も地下水もほとんどが軟水となり、欧米では大部分が硬水となります。
この違いは何によるものなのでしょうか。それは、川底や地下の岩石と水との接触時間の長さによるものとされています。岩石中のCa とMg は接触時間が長いと水に十分溶け出しますが、時間が短いと少ししか溶け出せないからです。その接触時間は河川水や地下水の流速に対応し、流速は流域の勾配に対応しています。
実際の河川で考えてみましょう。日本で最長の信濃川は長さ367 ㎞で、この間に標高差2200mを流下します。これをフランスのロワール川(長さ1006km、標高差1400m)や、アメリカのコロラド川(長さ1100km、標高差900m)と比べると、信濃川の急峻さがわかります。わが国の河川は急勾配で、流速は数十km/日にも達します。地下水の流速は数m~数十km/年で、河川水よりはるかに遅いですが、勾配が緩い欧米に比べると速い流れです。それゆえ日本の河川水と地下水は岩石との接触時間が短く、したがって溶け出すCa もMg も欧米より少ないことが理解できます。
わが国の水道水の水質は、硬度については300 mg/ℓ以下と定められています(厚生労働省令の水質基準)。また水のおいしさの点では、硬度10~100 mg/ℓがよいとされています(同省令の水質管理目標)。硬度300mg/ℓ以上の水は洗剤の泡立が悪く、洗濯に使えないので基準値は納得できます。でもおいしさについての硬度は本当にそうでしょうか。
これを確認するために、ある時、私は硬度が違う数種類の水を買って飲み比べてみました。本当に味が違います。硬度20 mg/ℓの水は柔らかく無味ですが、硬度38 mg/ℓでは少し味を感じます。さらに、フランス産の硬度304 mg/ℓの水では苦みがはっきりわかり、硬度1436 mg/ℓに至っては味がきつくて飲めません。皆様もどうぞお試しください。そのうえで、おいしいお茶や紅茶やお料理をお楽しみください。なおウィスキーの水割りでは、水の違いがわかったのは初めの一杯だけでした。
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