台風の盛衰
中国水工環境コラム第 7 回(2020 年 7 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
今年の夏は特別暑かったような気がしていましたが、9 月1 日の気象庁発表によると、8 月の平均気温は東日本で平年を2.1℃上回り、西日本でも1.7℃高かったそうです。また晴天が続き、太平洋側の降水量は
平年の30%程度でした。この原因は強い太平洋高気圧の張り出しです。そのために日本近海の海面水温が高く、台風の勢いが強まりやすくなったと、気象庁は関係方面に注意を喚起しました。そこで今回は、海面の水温と台風の勢力との関係について考えてみましょう。カギは水蒸気です。
海面水温が高いと雲をつくる水蒸気が増え、雲内の温度は上がります(第6 回環境コラム)。海面水温が27℃を超える熱帯では大量の水蒸気で雲内温度が大幅に上がり、雲内で新たな上昇気流が発生して雲は一段と高く大きくなります。海面の空気は上昇気流として空に上るので気圧は下がり、空気を補うために周囲から風が強く吹き込みます。これが熱帯低気圧の発生で、風速17m/s 以上になったものが「台風」です。
台風の勢力を強めているのは水蒸気ですから、上陸して水蒸気の供給が途絶えると一気に衰えます。また熱帯から北上して海面水温の低い海域に入っても、水蒸気が減るので衰えていきます。ところが、最近の水温は日本近海でも30℃近いので、台風は発達する可能性があります。気象庁はここに注目して注意を喚起したのです。
案の定、台風8 号(山口県西方通過8 月26 日)、9 号(9 月2 日)、10 号(9 月7 日)と、大きな台風が次々に東シナ海を北上していきました。その中の台風10 号は9 月6日朝に奄美大島の南東170kmにあり、気圧は925hPa で、特別警報級(930hPa 以下)の台風に発達すると予想されました。しかし、同日午後には945hPa にまで衰退したため、特別警報は出されませんでした。
衰退の原因として、数日前に東シナ海を北上した台風9 号によって種子島、屋久島周辺の海面水温が27℃以下に下がったことを挙げる研究者がいます。台風は上昇気流で海水も持ち上げ、海面が1mばかり盛り上がる場合があります。盛り上がった海水は四方に流れ出し、入れ替わりに水面下の海水が上がってきます。これが繰り返されると深いところの海水が表面に出てきます。水温は深いところほど低くなっているので、海面水温は下がるというわけです。
気象庁は、その頃に流入した乾燥空気が水蒸気の発生を抑えたことも原因に挙げています。しかし、かつて人工衛星の画像で台風通過後に海水温が2、3℃下がることを見ていた私としては、台風9 号の影響が大きいように思えます。いずれにせよ、今日の海面水温の上昇は疑いもなく地球温暖化のせいです。温暖化は湖の全層循環や海のベルトコンベアを妨げ(第4、5 回環境コラム)、台風を発達させます。世界は連携し、叡智を結集して温暖化をくい止めねばなりません。