雲の中は暖かい
中国水工環境コラム第 6 回(2020 年 9 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
夏から秋への移ろいは、空と雲の様子でわかります。空は澄みわたり、高度2~7 ㎞のひつじ雲や、さらに上空のいわし雲がはっきりと見えるようになり、時に入道雲も現れ、わた雲は低空を漂います。眺めて楽しいこんな雲たちは、地球の水循環と大気環境の維持に不可欠な仕組みなのです。
雲のもととなる水蒸気の最大の発生場所は海です。海表面の水は周囲から気化熱をもらって気体の水蒸気になり、上昇気流に取り込まれて空へ上ります。上りながら100m につき0.6℃ずつ冷えていきます。空気が水蒸気を保持する能力は温度に対応しているので、温度が下がるとやがて保持能力の限界(露点)に達し、水蒸気は水に変化します。これを凝結と言います。
上空で水蒸気が凝結すると、0.01mm ほどの小さな水滴になります。これが雲粒で、雲粒の集まりが雲です。雲の中で雲粒は互いにぶつかり、くっつき合って大きくなり、0.1~1mm になると雨粒として落下します。雨が陸地に降ると、地表と川を経て海に戻り、水循環が完結します。空中の水蒸気を効率よく地上に返すのが雲の役割です。
世の実験好きは上空で起こる雲の発生を実験室で再現しようと試みますが、大抵うまくいきません。空気と水蒸気を詰めた箱の温度は露点以下に下がっているのに、水蒸気は一向に凝結しないのです。空の上と何が違うのでしょうか。
実は、空には凝結核と呼ばれる微粒子が多く存在し、その表面で水蒸気を簡単に水に変えてくれているのです。多くの凝結核からは多くの雲粒が生まれます。凝結核は空中の浮遊粉塵で、その主成分は土壌粒子やススや硫酸塩などの汚染物質です。
では、日本上空の雲は一体どんな凝結核でできているのでしょうか。これを確かめるには飛行機で雲の中に入り、雲水を集めて調べることが一番です。そんな航空機観測をこれまでに何回か経験してきました。観測では、高度2 ㎞あたりに浮かぶ中程度の大きさのわた雲を選び、雲の中に突入します。途端に飛行機は雲内の上昇気流にぶつかり、揺さぶられ、突き上げられ、ドンと落とされます。とても快適な観測現場とは言えません。必死になって雲水を集めますが、その間、雲の中は暖かいなと感じます。それは、水蒸気が海表面でもらった気化熱を、凝結する際に雲内の空気に返しているからです。律儀なことです。
さて、こうして集めた雲の水はうす黒く汚れて見えます。その地域の浮遊粉塵が取り込まれているからです。また、雲の上部よりも下部が汚れていることもわかりました。遠くから見ると白い雲も、本当は空の粉塵の集積場なのです。でも、雲と雨のおかげで雨後の空気はきれいになり、清澄な大気環境が維持されます。
いかがでしたか。「あのわた雲を食べてみたいな。」とまだお考えですか。
