環境コラム

中国水工環境コラム第2回 大禍が遺すもの

大禍が遺すもの

中国水工環境コラム第2回(2020 年 5 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 新型コロナウィルスの感染拡大がなかなか収まりません。この原稿を書いている4月最終週時点での世界の感染者数は287 万人、死者は20 万人を越えています。日本の感染者は12,829 人、死者は334 人、退院者は2,662 人です(厚労省4 月26 日発表)。

 コロナ感染防止策として、ウガイ、手洗い、マスクの励行が勧められ、家庭でも職場でも実行されています。三つとも私達にはお馴染みで、食事前の手洗いなどは幼稚園や小学校で習慣化されています。

 考えてみれば、手洗いもウガイもきれいな水がたくさんあるから気軽にできることであって、水があるけど汚くてはそうはいきません。このきれいな水を作る技術、実はそれはコレラの流行という世界的な災禍の中で生まれたものでした。

 コレラは1817 年インドで大流行しましたが、世界的な貿易が盛んになるに連れヨーロッパにも拡がっていきました。1854 年8 月末にロンドンで流行し、9 月末までに616 名の死者が出たそうです。

イギリス人医師スノー(John Snow)は丹念な調査で罹患情報を集め、科学的に解析し、ある井戸が原因であることを突きとめました。この井戸には下痢で苦しむ幼児のおむつの洗濯水が流れ込んでいました。井戸水の使用を止めることでコレラは収まりましたが、コッホによるコレラ菌発見(1883 年)の30 年も前の話しです。

 このコレラの流行と恐怖が安全な水の供給と下水道整備を拡げるきっかけとなりました。コレラは明治の日本でも流行し、これを機にわが国の水道と下水道の整備が大きく進みました。

 ペストも大変怖い病気で、1340 年代の世界的な流行は封建的な身分制度を崩壊させ、社会や思想の枠組みを変え、ルネッサンスに至る契機となったと言われています。大きな禍はその苦しみの中から新しいものが生まれる契機ともなりました。では、いま私達が直面している新型コロナウィルスはどうでしょうか。この災禍の中で生まれる新しいものは何でしょうか。それはわが国が出遅れていたIT 活用の進
展であろうと言われています。すでにオンライン授業やWeb 会議や遠隔診察やテレワークなどが方々で始まっています。IT 環境も整備されつつあり、社会イノベーションの側面を見せています。

 もう一つ大事な側面があります。コロナとの戦いを終息させるには、世界の叡智を集めて、感染特性の解析、封じ込め対策、ワクチンの開発、既存薬の利用、弱者の救済などをする必要があります。

 各国が孤立と対立を抑え、世界的な協調を強めて連携して取り組んでこそ大きな成果が得られます。それができるほど人類が賢明であるかどうか、これが試されているように見えるのです。地球温暖化への取り組みと大変似ていますが、この側面を忘れてはならないと思っています。

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