水の消える川
中国水工環境コラム第 9 回(2020 年 12 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
「黄河断流」、1980 年代から90 年代によく耳にしたこの言葉は、黄河が途中で干上がり、水が渤海まで届かないことを指していました。原因は農地への水の取り過ぎでした。しかし、後に水位調節ダムの運用によって断流は解消されました。
断流に近い現象は、今日のわが国でも見られます。水量が減る時期になると、流れの途切れ(瀬切れ)ができる川があります。瀬切れの場所では、水は表面にこそ現れませんが、川底の下の小石や砂の間をちゃんと流れています。このような隠れた流れを「伏流」と呼んでいます。瀬切れの区間は短く、大抵の場合、少し下った場所で水は再び表に現れ、流れは復活します。ここが断流と違うところです。
私がかつて住んだ滋賀県では、瀬切れは方々の川で見られました。滋賀の川は県境の山々から一気に流下し、平地で小石や砂を川底に残して琵琶湖に流入します。小石や砂が豊富な川底には水を通す隙間が多いので、伏流水はここを通って移動します。
勤務先の大学の近くにも瀬切れする川がありました。ある学生が「水の性質は伏流によって変わるだろうか?」という疑問を持ち、指導の先生と一緒に伏流前後の水質を調査したことがあります。結果は驚くべきもので、伏流前の水にあった有機物が、伏流後には激減していました。小石や砂に付いている微生物が有機物を分解したからです。微生物による水の浄化、いわゆる「微生物浄化」が行われていました。
ところで、水道水の製法(浄水法)には「急速ろ過法」と「緩速ろ過法」の二つの方法があります。違いは、元の水(原水)の濁りの除き方です。
急速ろ過法では、薬品を原水に加えて濁りを寄せ集め、大きな粒にします。その後、厚さ60~70cm の砂の層でろ過します。濁りの粒が大きいのでろ過速度が大きく、短時間で大量の水道水ができます。今日の浄水法の主流です。
緩速ろ過法では薬品を使わず、原水を厚さ1m前後の砂の層でゆっくりろ過します。砂上の藻類や砂粒に付く微生物が濁りを分解する、微生物浄化の利用です。ろ過速度は急速ろ過の30 分の1 ですが、急速ろ過法では除きにくいある種の病原微生物を除くことができます。ならば、「緩速ろ過法を浄水法の主力にしたら?」と思う人が多そうですが、ろ過速度が小さいので大量の水を求める都市域には向きません。
水道の原水は大部分がダムと川の水ですが、一部で伏流水も使われています。小さな穴が開いた長い管を川底に埋め、管に入った水を使います。川底の砂でろ過され、微生物浄化された伏流水ですから良質です。宇部市は伏流水と緩速濾過法を使った水道水も作っていますが、まだ少量です。浄水の分野では、高度な技術よりも自然の浄化作用の方に分があるように思えます。