環境コラム

中国水工環境コラム第62回 春は水の中でも花が咲く

春は水の中でも花が咲く

中国水工環境コラム第62回(2025 年5 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 春は野も山も花いっぱいで私たちにとっては心の弾む季節です。春は水の中でも花が咲く季節です。滋賀県米原市の地蔵川は年中14℃前後の美しい清流として知られています。この川をさらに有名にしているのが水中のバイカモ(梅花藻)です。バイカモはキンポウゲ科の顕花植物で、梅の花に似た5弁の白い花を水に浮かべるように咲かせます。大きさ1.5㎝ばかりの可憐な花で、毎年5月半ばにはバイカモの花を愛でに地蔵川に出かけたものでした。

 海の中に咲く顕花植物もあります。アマモはそのひとつで、5月に花を咲かせます。雄花の花粉を雌花が受けて結実するので、れっきとした顕花植物です。胞子を出して繁殖するコンブやワカメなどの海藻とは繁殖法が違います。そのために、アマモやスガモなどの海中顕花植物は海草(うみくさ)と呼ばれます。海草の多くは河口域に群生しますが、なかでもアマモの群生場所であるアマモ場は小魚の産卵場所として、また、CO2吸収場所として重要な働きをしています(環境コラム第34回)。

 ところで、「花が咲く」は英語でbloom、その形容詞はブルーミング(blooming、花盛りの)です。環境学の分野ではブルーミングは植物プランクトンの大増殖を指します。植物プランクトンは海水にも淡水にもいますが、冬や夏に大増殖することはほぼありません。それが、春には爆発的に増殖する場合があります。特に、内湾や一部の湖で見られ、プランクトンの種類によっては水が黄色や赤色に染まることがあります。いわゆる赤潮です。

 ブルーミングはなぜ春に発生するのでしょうか。それは、春の日差しのためだとされています。植物プランクトンの生育には水温と、栄養分(主に窒素やリン化合物)、それに光が必要です。市街地に近い内湾や湖には下水処理場や家庭排水から窒素やリンが入りやすく、冬でも栄養分は豊富です。しかし光合成に必要な太陽光が不足します。春になると光は強くなり、水温も上がるために、植物プランクトンは一気に増殖するわけです。

 ブルーミングはその後が大変です。植物プランクトンが死ぬと細菌による分解が直ちに始まります。その際に酸素が消費されます。大量のプランクトンの分解には大量の酸素が要るために水中は酸欠に陥ってしまいます。水中の魚も貝も、生簀(いけす)の中の魚も貝も死んでしまいます。酸欠は湾内に侵入した魚の大群が引き起こす場合がありますが、多くはブルーミングの発生によって起こります。

 さて、このブルーミングの原因は内湾や湖への過剰な栄養分の流入です。わが国はこれを防ぐ技術に長けています。それによって窒素やリンの流入は抑えられ、水中はきれいになります。しかし、きれいになり過ぎて困ることも出てきます。きれい過ぎて困ること? 次回はその話です。

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