ゆでガエル
中国水工環境コラム第 47 回(2024 年 2 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
水の入った鍋にカエルを入れ、ゆっくり温度を上げていくと、カエルは逃げ出すことなくゆで上がってしまうそうです。カエルを「ゆでガエル」と呼び、状況変化に対応しないままに破局に向かう状況を「ゆでガエル現象」と呼びます。これらの言葉は変化に鈍感なことへの警告として多くの分野の人、特にビジネスに関わる人に知られていると、中桐有道さんは著書「ゆでガエル現象への警鐘」で書いています。
ところが、ゆでガエルの話は欧米の寓話を基につくられたもので、科学的な根拠はないとされています。ナショナルジオグラフィックの別冊「科学の迷信」(2018 年8月)によると、この話が本当だと信じられたのは、アメリカの医師・心理学者、E.W.スクリプチャーが1897 年に学術誌に書いた記事がきっかけとされています。記事は、「ある実験で、一秒間に0.002℃ずつ温度を上げたところ、カエルは2.5 時間後に動かないまま死んだ」というものです。
毎秒0.002℃で温度を上げれば、2.5 時間で18℃上がります。カエルがゆで上がった温度を90~100℃とすると、出発時点の温度は70~80℃くらいになります。この温度にカエルを入れたら、瞬時に飛び出てしまいます。オクラホマ大学のV.H.ハチソンは、全ての動物には耐えられる温度があり、カエルも例外ではないと言います。また、カエルは冷たい水の中でもじっとしていないのに、2.5 時間も動かないとは論外だとして、「科学の迷信」誌はゆでガエル説をバッサリ斬っています。
カエルの話とは違って、海の生物が水温上昇に対して敏感に反応することは科学的に証明されています。その典型が日本近海で見られるサンゴの白化です。これは、サンゴが死んで炭酸カルシウムの白い骨格が残る現象ですが、原因は海水温の上昇です。サンゴは骨格を形作るサンゴ虫とある種の海藻が共生している共生体です。水温上昇に弱いのは海藻の方で、これが先に死に、微量成分をもらえなくなったサンゴ虫もやがて死んでしまいます。
最近のテレビには、南の海の魚が北の海で獲れたというニュースがよく登場します。北海道ではブリの漁獲量が2011 年から急増しています。また、クロマグロといえば津軽海峡の大間と決まっていましたが、これが北上し、宗谷岬を越えて沿岸の定置網にかかるようになっています。さらに、北の海のワカメやコンブなどの大型褐藻が暖かい海のアイゴ類に食い荒らされ、ウニも冬眠せずに食害するので、大型褐藻が全滅する「磯焼け」が発生しています。私たちに身近な瀬戸内海でも、イカナゴの漁獲量が極端に減少し、その一方で、マダイやサワラが増えていると言います。
このように、海洋生物は温暖化の影響を人間に必死に訴えています。我々が温暖化対策をしないか、したふりをし続けることは許されないところに来ています。