ちょいと隠す
中国水工環境コラム第 45 回(2023 年 12 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
先日、NHK テレビは下関市の三菱造船江浦工場でつくられた一隻の船が進水する様子を放映していました。船体は鮮やかな空色で、船側には平仮名と英語で、「えくすくうる」および「EXCOOL」と書かれていました。船名です。この船には容積1450 ㎥のタンクが設置されていて、液化したCO2 を運べるようにできています。工場や火力発電所などから出るCO2 を集めて液化したものを積み込んで、苫小牧港まで運ぶのが仕事です。この仕事はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が進める、CO2 の地中貯留の実証試験の一部となっています。
すでに、製油所の水素製造装置から出るCO2 を液化する技術はできています。液化CO2 を地下の地層「貯留層」へ注入する試験は苫小牧港の施設の一部で進められています。貯留層は隙間の多い地層ですが、その上には水も気体も通さない「遮へい層」が存在することが大事で、このために地下800mより深くまで液化CO2 を注入するパイプを打ち込んでいます。2016 年から4 年がかりで30 万トンの液化CO2 を送り込み、それ以後はCO2 が漏れるかどうかをモニターしているところです。先日進水した「えくすくうる」にとっては液化CO2 を貯留現場まで確実に運べるかどうかが最初の試験です。
地球温暖化の原因がCO2 によるものであることは今日では世界の共通認識となっています。しかし、ここまで来るには国連が関わるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の地道な努力があり、その努力によってIPCC は世界各国から信頼される組織となっています。そのIPCC はCO2 の地中貯留を、「慎重に選んだサイトにおいて地層深く注入することにより、長期間の地下貯留ができ、注入したCO2 の99%以上が1000 年保持されると考えられる」と評しています。この評価は安定した地層なら妥当かも知れませんが、地震の多いわが国の、しかも、大きな東日本大地震を起こした日本海溝に面する苫小牧で、この先1000 年も大きな地震がないと言えるでしょうか。
地中に貯留されたCO2 は貯留中に石油その他の液体・固体になることはありません。あくまでも貯留ですから、貯留中にCO2 のうまい利用法が見つかれば、CO2 を再び取り出して利用しようという含みがあります。つまり、それまで人の目から「ちょいと隠す」策にすぎません。NEDO のCO2 事業はCO2 の利用と貯留を同時に進めるためのものですが、利用に関しては華々しい成果は見えていません。利用の中にはCO2 を他の化合物に変えて、化学工業製品の原料にすることなどが含まれていますが、採算がとれるかどうかよくわかっていません。
大気中で増加し続けるCO2 への対処は、CO2 の排出を抑えることが第一番であり、利用方法としては森林や海洋生物に取り込ませてグリーンカーボン・ブル-カーボンを増やすことが正道であることに変わりはないように思えます。