環境コラム

中国水工環境コラム第44回 二人の首長

二人の首長

中国水工環境コラム第 44 回(2023 年 11 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 去る8 月18 日、上関町の西哲夫町長は原発の使用済み核燃料(高レベル放射性廃棄物)の中間貯蔵施設の設置に必要な調査の受け入れを表明しました。この調査は中国電力が関西電力とともに8 月2 日に上関町に申し入れていたものでした。町長の受け入れ表明は町議会臨時会の冒頭で行われ、その後の会議では7 人が賛成、3 人が反対の意見を述べました。

 その翌月の9 月27 日、長崎県対馬市の比田勝尚喜市長は使用済み核燃料処分地の調査を受け入れないと表明しました。対馬市の建設業団体は6 月に調査受け入れの請願書を市議会に出し、市議会は9 月12 日にこれを10 対8 の賛成多数で採択していました。調査受け入れの諾否は最終的には市長に委ねられることになっていて、比田勝市長はこれを否としたわけです。

 原発の放射性廃棄物は地下300m以深の安定した岩盤の一部に封じ込めて、「地層処分」することとなっています。処分地の選定は原子力発電環境整備機構が行い、文献調査(2 年程度)、ボーリングなどの概要調査(約4 年)、地下の精密調査(約14 年)の順に進めます。受け入れ自治体には給付金が用意され、上関町の文献調査期間には毎年1.4 億円が支給されることになります。

 上関町長は調査受け入れの理由を、疲弊していく町を持続可能にするためとしています。給付金による地域おこしです。今回の中間貯蔵施設は青森県六ケ所村の再処理工場に搬出されるまでの仮置き場で、これを中国電力所有の原発予定地に設けるものです。調査は早めに終わり、貯蔵施設建設の話しに移るとみられています。町長は「調査と施設建設とは別物」と言いますが、街にはそこを心配する声もあります。

 一方、対馬市の市長は受け入れない理由として、処分場を巡って続いてきた市の分断状態の収束、水産業や観光への風評被害および放射能漏れの可能性を挙げています。とはいえ、人口減少と産業の衰退は対馬市でも大きな問題となっています。すでに文献調査を受け入れている北海道の寿都町も神恵内村も人口減少と高齢化が進み、地域活性化の財源を必要としていました。

 その一方で、行政や補助金に頼らずに地域おこしをしているところもあります。鹿児島県鹿屋市柳谷集落、通称「やねだん」がその一つです。リーダーは公民館長の豊重哲郎さんで、10 年ばかり前にお会いしました。やねだんでは地質を生かしたサツマイモ栽培、それを使った焼酎醸造、唐辛子栽培、土壌微生物培養などで収益をあげ、芸術家や県出身者の定住を進めています。豊重さんは、「地域活性化は独自財源を持ってトライし続けることが大事で、補助金に頼っていてはできない」と言います。

 日本各地には、太陽光発電の普及、林業の再生、教育の盛り立て、魚介類の養殖などで地域おこしを図っているところがあります。各自治体は参考にすべきだと思います。

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