変貌する黄砂
中国水工環境コラム第 34 回(2023 年 1 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
今から32 年前に「黄砂」という名前の本が出版されました。名古屋大学の研究者をはじめ、34 人が執筆した専門書です。当時は黄砂が名古屋に飛来することは少なかったので、私は長崎大学の校舎の屋上に黄砂採取装置を置かせてもらっていました。長崎は大陸に近いだけあって十分な試料が得られたので、その分析結果を本の中に書くことができました。電子顕微鏡を使った研究者は、黄砂の表面に大気汚染物質らしき付着物を見つけていました。また、微生物の付着も指摘されました。名古屋大学の岩坂
泰信名誉教授は付着微生物の中に納豆菌を見つけ、それを使って業者がつくった納豆も市販されました。そのくだりを書いた本のタイトルは「空飛ぶ納豆菌」。黄砂研究は何となく面白い分野でした。
しかし、2000 年代に入ると黄砂の様子が大きく変わり、厄介者としての性格が強くなりました。とはいえ、2021 年3 月の本コラムでも言及したように、厄介者でありながらも多少のいい面も評価されていました。ところが最近は、健康被害が心配されるほどの「公害」の性質を帯びるようになりました。先月の12 日から13 日に日本に飛来した黄砂などは、多くのマスコミがそれへの注意を呼びかけたほどでした。
この黄砂を契機に、多くのテレビ局が黄砂表面の汚染物質や黄砂発生の仕組みを掘り下げた報道番組を組んでくれました。衝撃的だったのは、聖路加国際大学の大西一成准教授が示した二つの試料の写真でした。一つは黄砂発現地のゴビ砂漠の細砂で、色は黄土色。もう一つは東京で採取した黄砂で、その色は黒ずんでいました。黒ずみは飛来中の黄砂に中国上空の汚染物質が付着したためとの説明でした。事実、同黄砂からはニッケル、鉛、銅などの重金属が検出されました。また、アンモニア、硝酸、硫酸塩などの汚染物質が検出されたとの報告もありまzす。黄砂がアレルギーや呼吸器障害を起こすのも当然だという気がしました。
黄砂の発現地は中国内陸部の砂漠や黄土高原などですが、近年はそのほかの場所でも乾燥域が拡がっていると言われます。その原因の一つが家畜の放牧のし過ぎだと、内モンゴル自治区で緑化に取り組んでいるグループは指摘します。家畜としては牛、ヤギ、羊などですが、中でもカシミヤヤギの数が増えています。そうです、ふわふわで温かいカシミヤ毛糸の生産者です。
牛は草を食べるのに長い舌を使い、これを草に巻き付けて引きちぎります。草の大半は食べられますが、残った株から新芽を出して復活します。しかし、ヤギは草の根元から食べつくすので、草は枯れ、草原は砂漠化します。さて、カシミヤヤギの毛の行先ですが、内モンゴルの緑化グループによると、ほとんどが日本だと言います。私たちが砂漠の拡大に加担していると聞きながら、カシミヤのセーターや洋服を着るのはいささか後ろめたい気がしませんか。
