環境コラム

中国水工環境コラム第36回 島は増える

島は増える

中国水工環境コラム第 36 回(2023 年 3 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 2週間ほど前の2 月15 日、多くのマスメディアは日本の島の数が14,125 になる見通しであると報じました。これまでは、海上保安庁が1987 年に公表した6,852 が国内の島の数とされており、日本は世界8位の多島国といわれてきました。それが14,125 になると、フィリピン、オーストラリア、インドネシアを抜いて世界第5 位となります。どうして島の数が一気に倍以上に増えたのでしょうか。

 かつて海上保安庁が島の数を数えたときには、縮尺25,000 分の1 の紙の海図を使い、手作業で外周100m 以上の島を選び出していました。しかし、小さな島の記載は省いたり、縮尺が大まかな海域があったりで、正確な数の把握は困難でした。今回は国土地理院が2022 年に作成した電子国土基本図を基にコンピューターで計測しました。島の数が増えたのは島の計測精度が上がったためでした。なお、領土の広さに関わる国境離島には変化がなかったそうです。

 ところで、島とはどういうものを指すのでしょうか。それは国連海洋法条約で定められていて、「自然にできた陸地で、水に囲まれていて、満潮時でも水面上にあるもの」となっています。この定義に従うと、沿岸を埋め立てた造成地や、海面すれすれの浅瀬に造った人工島は、自然にできた陸地ではないので島とはいえません。

 さて、わが国の島の数が倍以上になっても、5 万以上の島を持つスウェーデン、フィンランド、ノルウェー、カナダの4 か国にはおよびません。中でもスウェーデンには221,800 もの島があるそうです。これらの国はいずれも北緯60 度以北にあり、氷河期には厚さ2~3km の氷河に覆われていました。氷河期は1 万年前に終わり、以後、氷河の融解が始まりました。融解によってできた水は無数の湖をつくり、湖の中の高地は島となって残りました。1万年の間にたくさんの島が出現したことになります。

 スカンディナビア半島のスウェーデン、フィンランドおよびノルウェーに島が多いのには、別の理由もあります。それは、半島全体が氷河の融解につれて隆起したことです。隆起は今日でも続いていて、毎年約1cmずつ高くなっている地域もあります。隆起によって水の上に出た沿岸の岩礁は島となったために島の数が増えました。スカンディナビア半島が隆起したのは、氷河の重しがとれたことによって半島がマントルから浮かび上がってきたことが原因です。

 私たちは火山や温泉を通して、地下の深部に高温で溶けたマントルがあることを知っています。陸も海底もそのマントルの上に乗っていて、分厚い氷河や山脈の深部は重さでマントルに沈み込んでいます。南極やグリーンランドも、今はマントルに沈んでいます。しかし、温暖化の進行で氷が解けると、軽くなって浮かび上がります。それにつれて島は増えるでしょうが、そんな島の出現は望ましくありませんね。

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