環境コラム

中国水工環境コラム第11回 炭素循環

炭素循環

中国水工環境コラム第 11 回(2021 年 2 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 私がかつて勤めていた大学には、環境科学部の学生向けに「環境科学概論」という講義科目がありました。授業の進め方は、複数の先生が話しをつないでいく「オムニバス形式」でした。私も分担していて、「物質循環論」を数回に分けて講義しました。その最初にとりあげたのは、本コラムでも紹介した地球上の水循環でした。

 次にとりあげたのが「炭素循環」でした。炭素循環を要約すると、「CO2 の炭素が、光合成によって有機物の炭素になり、生態系を経由した後に、酸化されてCO2 に戻ること」となります。このなかで最も重要なのは光合成です。これができるのは葉緑素を持つ光合成植物だけで、陸上の緑色植物と水中の植物プランクトンやシアノバクテリアなどが該当します。

 光合成植物は、CO2 から炭水化物をつくり、さらにその一部を使って、脂質やタンパク質をはじめ、さまざまな有機物をつくります。これら全ての有機物は、食物連鎖を通じて生態系全体にいきわたり、あらゆる生物の生命を支えます。そして、生物の命が尽きると、細菌が遺体の有機物をCO2に分解して、炭素循環が完結します。

 光合成は、太陽光をエネルギー源として使います。それゆえ、草も木もできるだけ多くの太陽光を捕捉しようとして、さまざまな工夫をします。その一つが葉の付き方です。植物の葉の付き方・並び方を葉序といいます。葉序の研究の歴史は長く、レオナルド・ダ・ヴィンチも関わりました。

 葉序の観察には、10 枚ばかりの葉を付けたヒマワリが適当です。ヒマワリを上から見ると、葉は互いに160 度近い角度を保って、下から上へ付いていくことがわかります。葉は重なりを避けるように並び、一番下の葉との重なりは、下から8 枚目の葉まで見られません。このように、多くの葉で光を受けるようにできています。

 ヒマワリ以外のどの植物も、葉は重なりが少なくなるように付いています。私たちはそれを見て、多くの光を受けようとする植物の知恵に感心します。ところが、葉序の研究者は、「葉序は数学的原理に支配されていて、光の受け方が主な要因ではない」と言います。ちょっと興ざめですが。

 光合成植物の能力でも、CO2 から有機物をつくる反応となると話しは別です。こちらは研究者にとって垂涎の的です。CO2 を減らし、温暖化を抑える方策のひとつだからです。この分野では日本が世界をリードしています。わが国の名だたる企業や研究機関がしのぎを削っており、大学でも地道な研究が続いています。

 政府は昨年、「わが国は、2050 年までにCO2 排出を実質ゼロにする」と世界に宣言しました。この目標の達成のためにも、私たち自身がCO2 を出さない努力を続けながら、CO2 を有機物に変える技術の進展にも関心を持ちたいものです。

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