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中国水工環境コラム第60回 空の掃除人 - 中国水工株式会社
環境コラム

中国水工環境コラム第60回 空の掃除人

空の掃除人

中国水工環境コラム第60回(2025 年3 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲の、細くたなびきたる。

 誰もが暗記させられた「枕草子」の冒頭ですが、もう少し陽が昇ると、春の空は実に汚いことがわかります。空を汚しているのは主に花粉と黄砂と霞です。きれいな冬空を見慣れた目にはことさら汚く見えますが、でも、いつの間にかきれいになっています。何か仕掛けがあって、あるいは掃除人でもいて、空をきれいにしてくれるのでしょうか。

 空中に浮かんでいる粒子はエアロゾルと呼ばれます。花粉も黄砂も霞もエアロゾルです。通常は直径1㎛(千分の1mm)以下の、目に見えない微小なエアロゾルがほとんどですが、春にはこれに10~100㎛もある花粉と黄砂と霞が加わるので空がかすみます。黄砂と花粉のうち、大きくて重いものは自重で地上へ落下し、小さいものは空中に留まります。霞はやがて水分が蒸発し、水分に包まれていた微粒子は上昇気流で上空へ運ばれます。

 気体の水蒸気も上昇気流に乗って上空へ運ばれます。上空では気温の低下に伴って水蒸気は気体から液体の水に変化しようとしますが、水蒸気だけではうまく液体になれません。その手助けをするのが微小なエアロゾルです。これに触れると水蒸気は瞬く間に小さな水滴になってエアロゾルを包み込みます。その小さな水滴の集まりが雲です。雲の中では小さな水滴がぶつかり合って大きくなり、雨滴となって地上に落下します。雨滴は落下途中に出会ったエアロゾルも取り込みます。水蒸気は空の掃除人ということができます。おかげで雨後の空はきれいになりますが、地上の車はエアロゾルで汚れることになります。

 もう一人頼もしい空の掃除人がいます。OHラジカル(・OH、オーエイチラジカルまたはヒドロキシルラジカル)と呼ばれる化学種です。これは強力な酸化剤で、排ガスに含まれる汚染物質である窒素酸化物(NOx)とイオウ酸化物(SOx)を空気中や雲粒中で酸化して、それぞれ、硝酸イオン(NO3)と硫酸イオン(SO42-)に変えてしまいます。雲粒はやがて雨粒となって空から除かれます。これが酸性雨の正体です。

 OHラジカルはさらに大事な仕事をします。それはメタン(CH4)の酸化分解です。メタンは池の底や水田土壌など、酸素が極端に少ない場所で発生します。牛の腸内でも発生し、蟻の棲家の蟻塚からも発生します。メタンは温暖化気体で、温暖化を進める能力はCO2の20倍も高いとされています。これを分解してくれるので、私たちには大助かりです。ついでにCO2も分解してくれればなおありがたいのですが、そうはいきません。CO2の後始末や削減は人間がすることだと、OHラジカルは言っていますよ。きっと。

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