環境コラム

中国水工環境コラム第56回 消してはならない大学

消してはならない大学

中国水工環境コラム第 56 回(2024 年 11 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 我が国の人口減少は大学受験者数についても例外ではなく、文科省はこの先かなりの数の大学が消えていくと予測しています。そのうえで、定員割れの大学を廃止や縮小へと誘導する政策を進めています。その一つは、入学者数が入学定員を下回った大学には国の助成金を減らすことです。それに加えて、学生への就学支援制度の対象大学からも外そうとしています。

 大学に必要な経費は教育費、研究費、施設維持費などで、主な使途は人件費です。収入源の方は受験料、入学金、授業料、国の助成金、文科省以外の官・民・自治体からの研究費(外部資金)です。国の助成金は国公立大学では全経費の半分近くを占め、私立大学では1 割程度となっています。いずれにしても、大事な収入源です。

 国の助成金は入学者数が入学定員の90%を切ると削減され、50%以下になると打ち切られます。また、就学支援制度(低所得世帯向けの給付型奨学金)は、大学の全学生数が全入学定員の80%を切る年が3年続けば、その大学は対象外となります。国公立大学には今のところ目立った定員割れはありませんが、私立大学は深刻な定員割れに直面しています。

 文科省によると、現在、日本の大学数は811(国立86、公立101、私立624)で、学生数は295 万人(国立20%、公立6%、私立74%)。私立大学には学生数2 万人以上の大学が17(国公立は3)ありますが、全体の75%は4000 人以下の小規模大学です。今春、入学定員を割った354 大学のほとんどと、就学支援制度の対象から外された8大学はいずれも小規模私立大学でした。

 大規模私立大学は3 大都市圏(東京圏、愛知、京阪神)に集中しています。一方、小規模私立大学の多くは地方にあって、看護、介護、福祉、教育など地方に不可欠な人材を養成しています。私が知る滋賀県の5 つの小規模私立大学も看護、福祉、教育、バイオ、デザイン、スポーツなどの専門分野を持ち、地域社会と密接に連携しています。このような地方への貢献を評価せず、定員割れのみで廃止や縮小を迫るのは一面的過ぎる気がします。

 滋賀県の小規模大学で目を引くのは、少人数ゆえに可能な質の高い教育が実践されていることです。学生と教員の距離が近く、クラスは少人数、詳細な授業計画と対話型授業、頻繁な試験と宿題があり、仕上げは卒論と各種国家試験・資格試験です。このような教育は大規模私立大学では望むべくもありません。

 大学教育の目的は社会や学術の進歩に貢献できる人の養成で、評価の視点は「何ができるようになったか」です。そのために必要なのは質の高い教育です。文科省はそれが不可能な大規模大学こそ縮小・分散させて教育を支援し、もって、大学教育の評価が杜撰だと欧米から指摘される日本の課題を克服すべきだと考えます。

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