環境コラム

中国水工環境コラム第54回 PFOA、PFOS、まとめてPFAS

PFOA、PFOS、まとめてPFAS

中国水工環境コラム第 54 回(2024 年 9 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一

 よく似た英単語がタイトルに並んでいます。単語の頭のPF はperfluoro の略で、フッ素(F)だらけという意味です。後ろの2 文字は、OA がオクタン酸(炭素8 個の有機酸)、OS はオクタンスルフォン酸(炭素8個でイオウを含む酸)の略です。AS は鎖状物質の意味で、PFAS は何種類ものフッ素だらけの鎖状化合物の総称です。その形は山ぶどうに何となく似ていませんか。

 今、PFAS が各地の飲み水や地下水、河川水などから見つかっています。PFAS は肝機能障害、コレステロール値の上昇、乳児の体重低下などを起こすとされています。また、国際がん研究機関は「PFOA には発がん性があり、PFOS には発がんの可能性がある」と判断しています。このような健康障害を
考慮して、国は水中のPFOA とPFOS の合計濃度に対して50ng/ℓの指針値を設定しています(1ng は100 万分の1mg)。

 国の指針値の設定を受けて、全国的にPFAS の調査が行われ、環境省はその結果をまとめて公表しています。2022 年度の調査では、公共用水域(河川、湖沼、海域)の876 調査地の37 地点で、また、地下水調査地382 の74 地点で指針値を超えていました。沖縄の状況は特に深刻で、1500ng/ℓを超える河川や、800ng/ℓを超える湧水地があります。この異常さには米軍基地の存在が関わっていると考えられています。宇部市については、地下水の3ng/ℓ、海水の5ng/ℓ以下が記載されています。

 PFAS は水溶性泡消火剤、金属メッキ液、繊維の防水加工剤、包装紙改良剤などとして広く使われ、熱に強くて焦げ付かないフライパンのコーティング剤としても知られています。これらの用途はPFAS の化学的性質に基づいています。発泡性は、水を弾く鎖状部分と水に馴染む酸の部分を併せ持つためで、石鹸とよく似ています。また熱や化学薬品に対する強さは、炭素とフッ素の結合の強固さから来ています。

 PFAS が熱や薬品に強いのは製品としてはありがたい性質ですが、河川水、地下水、土壌などの環境中では分解しにくく、いつまでも残ることになります。私たちはかつて同じような経験をしました。BHC やDDTなどの塩素系農薬がそれで、これは広範囲の害虫に効き、しかも効果が長続きするので、世界中で大量に使われました。その結果がもたらしたのは、トンボも蝶も魚もいない、野鳥さえも姿を消した「沈黙の春」(R.カールソンの著書名Silent Spring より)でした。深刻な環境汚染です。

 これが契機になって農薬は大幅に改良されました。今日の農薬は、目的とする害虫、病原菌、雑草に対してのみ効果を発揮します。しかも、一定期間後には自然に分解するように、どこかに弱点が仕込まれています。的が絞られ、効果が高く、退き際がいいのです。これは今日の農薬の姿ですが、人間に対して、特に、政治に関わる人達にも求められそうな気がします。

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