「はやぶさ2」が届けたもの
中国水工環境コラム第 28 回(2022 年 7 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
一月ばかり前の6 月6 日には、テレビも新聞もいっせいに“小惑星リュウグウにアミノ酸発見”のニュースを伝えました。惑星探査機「はやぶさ2」が、リュウグウの砂を入れたカプセルを地球に届けたのは2020年12 月のことでした。その砂の量は予想をはるかに超えた5.4g であり、惑星試料の採取ミッションとしては大成功でした。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は試料全体の状態を記録したうえで、0.5g を14 か国、350 人以上から成る8 つの研究チームに少量ずつ分配しました。各チームは別々の視点から研究を進めていて、今回ニュースになったのはその成果の一部でした。主な内容は二つで、一つは23 種類のアミノ酸が見つかったことであり、もう一つはリュウグウの生い立ちに関する新説でした。
アミノ酸は互いに結合してタンパク質を作ります。タンパク質は生物の主要な構成成分であり、酵素の主体でもあります。したがって、アミノ酸の存在は生命発生の必須条件となっています。この点に関して、研究リーダーの一人である岡山大学の中村栄三特任教授は「リュウグウのアミノ酸が生命の起源と直接結びつくとまでは言えないが、生命の起源に関する議論の基盤となり得る」と慎重なコメントをしています。
リュウグウの生い立ちに関しては、今回、新しい説が出されました。太陽系形成初期に、太陽系の外縁にあった氷に包まれた惑星が他の惑星との衝突で数km のサイズになり、かつ太陽に近い軌道に移動した氷惑星がリュウグウの起源だとする説です。太陽の熱で氷は融解・蒸発し、表層の岩石の表面では水の作用で新しい鉱物やアミノ酸が生成したと考えられています。
リュウグウでのアミノ酸の発見と生い立ちに関する新説は、生命発生の議論にとって重要な情報となりました。アミノ酸をつくる水素、炭素、窒素、酸素などの元素は、稀薄ながら宇宙空間に漂っています。星間物質と呼ばれていて、これには一部の簡単な有機物も含まれています。これらの物質と惑星上の水、さらに一定の熱があればアミノ酸は生成する可能性があります。「はやぶさ2」は生命発生の謎を解くカギを私たちに届けてくれたと言えます。
戦後の宇宙科学・開発は米ソがしのぎを削って推し進めてきました。それは膨大な経費をかけ、有人・無人の探査機を月や宇宙空間に送ることが主でした。一方、わが国は高度な航行技術で小型探査機を運用し、遠くの惑星の試料を持ち帰ることを目指してきました。そして、今回、この独自の方法によって実に貴重な宇宙情報を手に入れることができました。世界が注目する宇宙科学競争において、日本が使える切り札を「はやぶさ2」は届けてくれたとも言えます。
そんな地上の事情はいざ知らず、「はやぶさ2」は2026 年と31 年に到着予定の二つの小惑星への旅を今日も続けています。
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