惑星に生命を探す
中国水工環境コラム第 13 回(2021 年 4 月)
執筆者:中国水工(株)環境アドバイザー 大田啓一
昨年12 月、惑星探査機「はやぶさ2」は正確な軌道で地球に接近し、高度22 万kmでカプセルを切り離すと、自分は再びはるかな宇宙へと旅立ちました。カプセルは狙い通りに砂漠に着地し、「リュウグウ」の岩石試料は無事に日本に届きました。
一連の探査機運用技術はあまりに見事で、世界のたくさんの人びとに、まるで完璧な航空ショーを観たかのような感動を与えました。同時に、私たちには生命の起源を探る研究の大変さを改めて認識させました。現在、多くの研究者が岩石試料の分析を進めており、生命発生の手がかりが得られるものと期待されています。
このような最先端の研究とは別に、地球以外の星にも生物がいるかどうかは、誰もが昔から抱いていた素朴な疑問でした。それに答えようとして、望遠鏡による月や金星や火星などの観測は1600 年代から行われてきましたが、確かな回答が与えられたのは第二次大戦後のことでした。それはロケットや探査機や人口衛星などを使った高度な宇宙技術開発の成果でした。今回のコラムでは、高度な宇宙技術が何を明らかにしたかを見ておきましょう。
第二次大戦後の宇宙技術は、アメリカとソ連(ソビエト連邦)の宇宙探査競争のなかで開発されました。その競争は、ソ連がスプートニク1 号を世界で初めて地球周回軌道に乗せた1957 年に始まり、約20 年間続きました。大抵はソ連が一歩先を行き、アメリカはその後を追いかけていきました。例えば、1961 年にソ連のボストーク1 号がユーリイ・ガガーリンを乗せて地球軌道を周回すれば、アメリカは翌1962 年、ジョン・グレンを乗せたフレンドシップ7 に地球を3周させる、といった具合でした。
月については、ソ連が1959 年から7 年間、表面撮影と探査機による調査によって生物がいないことを示唆していました。アメリカは1969 年、アポロ11 号で世界初となる人間の月面到着を成功させ、詳しい実地調査もしました。こうした米ソの競争を通して、月には生物もその痕跡も存在しないであろうと結論されました。
月の実態がわかった後は、ソ連は金星の探査と宇宙ステーションの建設に向かい、アメリカは火星とそれ以遠の星の探査へと方向を転換しました。
金星はかつて、水も緑豊かな森も存在する惑星だと考えられていました。しかし、ソ連の観測結果から、植物はおろか微生物もいないことがわかりました。火星にはアメリカが多くの探査機を送り込みましたが、生物の存在や生命の発生に関する確たる証拠は得られませんでした。
このような長年の探索から、地球以外の星に生物はいないだろうと思われるようになりました。では、「はやぶさ2」はどんな情報を得ようとして困難な旅をしたのでしょうか。次回はそれを議論しましょう。